[II-SY6-2] 右心室の存在意義
Keywords:Fontan, vascular aging, arteriosclerosis
フォンタン患者には肺循環心室がない。つまり肺循環心室がなくてもヒトの循環は成立するということになる。では正常心における肺循環心室である右心室はどのような役割を担っているのであろうか。人は血管とともに老いると言われる。加齢による血管の変化はarteriosclerosisと呼ばれ、その組織学的な変化は弾性血管に見られるelastin fractureやcollagenの増加であり、その結果弾性血管の代表である大動脈は弾性を失い拡大する。vascular agingは脈波伝播速度を指標として評価されるが、脈波伝播速度の亢進により圧反射は増強し左室肥大が生じる。左室肥大により左室流入障害が起こることで左房圧は上昇し、肺高血圧が惹起される。肺高血圧により右心室圧は上昇するが、右心室がなければ肺動脈圧の上昇は右房圧の上昇、中心静脈圧の上昇となる。各臓器にとっては動脈圧が上昇し静脈圧が上昇することでサンドイッチとなり、さまざまな臓器障害に至る。右心室の役割の一つは、以上のような機序により老化に伴う循環の破綻から生体を守ることである。さらに先天性心疾患においては大動脈への手術介入や部分的な大動脈の血流増加により、arterial stiffness gradientを保つことができず、その結果圧反射が亢進している病態が多い。言い換えればvascular agingが進行している患者が多い。すなわち老化に伴う肺動脈圧の上昇を静脈系に及ぼさない働きを担う肺循環心室が存在せず、さらに老化に伴う肺動脈圧の上昇が起きやすい大動脈を有するというハンデを持って加齢に立ち向かうのが成人に到達したフォンタン患者たちである。将来を見据えて、小児期よりvascular agingを回避するような指導が重要である。Murakami T. Aging in patients with Fontan circulation. J Am Coll Cardiol 2024;83:e117