[III-OR25-06] 生体肝移植・フォンタン術後に発症した重篤な血管拡張症候群に対して,門脈体循環シャントの閉鎖を試みた一例
キーワード:フォンタン循環, 血管拡張症候群, 肝移植
【背景】血管拡張症候群はフォンタン手術(以下F術)後,肝機能障害と門脈体循環シャント(PSS)が原因で発症する病態で致死率も高い。今回,生体肝移植後にF術を実施して9年後に血管拡張症候群を発症し,重篤な経過を辿った例を経験したので報告する.【症例】15歳男児. 左側相同,左室低形成,不均衡型房室中隔欠損,下大静脈欠損,奇静脈吻合,先天性胆道閉鎖症.当院にて生後8か月時に生体肝移植,3歳時に川島手術およびDKS吻合術,5歳時にEC-TCPC術が行われた.SpO2 90%程度(室内気)で良好なフォンタン循環を維持していたが,11歳頃からSpO2の低下・CVPの上昇,肺内動静脈瘻の出現と増悪,PSSを認め,1年前より短期間の心不全入院を繰り返していた.今回,尿量低下と急激な浮腫のため入院した.入院時のバイタルは血圧90/34 mmHg,SpO2 82%(マスク5L/min).あらゆる利尿剤に反応が乏しかったが,高心拍出性高CVPのフォンタン循環不全および血管拡張症候群と判断し,ノルアドレナリン(NAd)を投与すると利尿が得られた.上部消化管内視鏡と造影CTで胃・十二指腸静脈瘤・PSSの増悪,さらに肝生検で肝障害の進行を認めた.NAdを離脱できず,全身状態の悪化を認めたため,入院62日目にPSSの一部である胃腎シャント塞栓・胃静脈瘤塞栓を実施した.治療は完遂したが病状は改善せず,術後1週間で門脈本幹と肝内門脈の血栓閉鎖が認められ,多臓器不全が進行し入院74日目に永眠した.【考察】本症例ではF術後の肝機能障害,血管拡張症候群の増悪因子として,二つの特殊な要因が考えられた。一つは,移植肝であるため線維化が起こりやすかったこと.もう一つは内臓錯位症候群のため胎生期に消退せずに残存した静脈の一部が,側副血行路として発達しPSSの増悪に関与したと考えられた.フォンタン関連肝障害が進行し肝臓臓器抵抗が増していたことが,PSS閉鎖術が奏功しなかった理由と推測された.