[III-P03-3-10] 大動脈間を走行する単一冠動脈の一手術例
キーワード:冠動脈起始異常, 単一冠動脈, unroofing
【初めに】冠動脈起始異常の発生は稀であるが、競技スポーツ選手における突然死の死因として二番目に頻度が高いとされている重篤な疾患の一つである。今回、悪性度が非常に高いと考えられる稀な走行を示す冠動脈起始異常に対し、外科手術を行い良好な結果を得たため報告する。【症例】14歳少年。学校体育の授業中に、一年間で三回の意識消失発作あり。近医で初回発作後に脳波、頭部MRI、二回目の発作後にUCG、運動負荷心電図等の精査が行われたが、いずれも異常は指摘されなかった。三度目の意識消失発作後、精査加療目的で当院へ紹介された。精査の結果、単一冠動脈に伴う心筋虚血による心原生意識消失発作が疑われた。その冠動脈形態は、left Valsalva洞から起始する単一冠動脈で、共通幹は長く、大動脈・肺動脈間を壁内走行していた。更に左冠動脈主幹部は単一冠動脈共通幹から分岐後、outlet septum内を走行していた。心筋虚血を証明するための運動・薬物負荷は突然死の危険が高く実施されなかった。上記経過から手術目的にて当科へ紹介された。手術は胸骨正中切開、人工心肺を用いた心停止下に、unroofing法を用いて修復を行った。術後2年半が経過したが、その間意識消失発作や、運動負荷心電図で虚血を疑う所見は認められていない。【コメント】冠動脈起始異常は非常に稀な疾患ではあり、診断に難渋することが多い。本症例でも、確定診断に至るまでに三度の意識消失発作を経験している。冠動脈起始異常の中で、左冠動脈がright Valsalva洞から起始し、左冠動脈主幹部が大動脈・肺動脈間を走行するものは突然死のリスクが高いとされ、症状の有無に関わらず手術介入が推奨されている。本症例は左冠動脈主幹部に加えて右冠動脈までもが単一冠動脈として大動脈・肺動脈間を壁内走行しており、非常に危険な解剖と判断し手術介入を行った。このような症例に対してもunroofing法は有効な術式であると考えられた。