日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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競技スポーツ研究部会 » 【課題B】競技スポーツにおけるコーチ養成をいかに効果的に行うか

競技スポーツ研究部会【課題B】口頭発表②

2021年9月8日(水) 09:00 〜 09:50 会場16 (Zoom)

座長:小谷 究(流通経済大学)

09:35 〜 09:50

[競技スポーツ-B-07] アーティスティックスイミングにおけるエキスパートコーチの実践知

ライフストーリーを用いた事例的検討

*三井 梨紗子1、北村 勝朗2、水落 文夫2 (1. 日本大学大学院、2. 日本大学)

スポーツコーチにとって選手の競技力を向上させることは重要な役割である。評定競技は、審判員が見た選手の動きに対する評価で優劣が決まるため、採点する審判員の動き方に関する価値意識や判断力を信頼するという前提の上に成り立っている。さらに、評定競技における選手の動き方に対する評価対象は、時代や文化など背景によって流動的に変化しうる「美しさ」など抽象的な概念である。そのため、評定競技のコーチはそれらの背景に加え、審判員の立場や試合の状況といった様々な要因を視野に入れ、演技に高い評価が得られる選手を育成するためのコーチングが求められる。本研究の目的は、評定競技であるAS競技のエキスパートコーチ1名を対象に、長年のコーチング経験の過程で、どのような視点で選手の動作、および選手の育成をとらえていたのか、それらの変化は選手とどのように関わることで生じ、評定競技の特性を踏まえた実践知として形成されていったのかを記述することである。この目的を達成するための方法として、実践知の形成過程を読み取ることに適したライフストーリー法(桜井、2012)を選択した。非構造化インタビューによって得られた発話データを分析した結果、AS競技のエキスパートコーチは、ある経験を契機に自らに課せられた使命と選手の理想像を明確にした。そして、自らが指導できる限界を受け入れ、各分野の専門家の協力を仰ぎながら育成環境を整備していった。また高く評価される演技に拘り、演技の見せ方や審判の見方など、複数の視点を踏まえた動きづくりのコーチングを模索した。それには、選手の個性の捉え方、他者から求められる演技と選手像を追求したブランディングが影響していた。最終的にエキスパートコーチが目指す理想像は、選手が主体的に自らの長所を活かし、コーチが想定した個々の選手の限界を越える領域に達した表現ができる選手であった。