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[競技スポーツ-C-10] 段違い平行棒のけ上がりにおける握りなおし技術に関する構造体系論的考察
体操競技のトレーニング実践では、段違い平行棒特有の柔らかいバーの撓りを利用したけ上がりにおける切りかえし局面の握りなおしが多くのコーチによって見過ごされ、選手の自得に任されている現状が指摘された(野田、土井、2021)。特にこの握りなおしは、相対的にバーの太さに比べて手が小さいジュニア選手に対する技術トレーニングとして指導の対象にすることが望ましい。運動技術は「運動習熟としての技術」と「仕方の規則の総和ないし指導内容としての技術」の2つからなると考えるのが一般である(Bernett、1964、s.124)。朝岡(1990、p.103)によれば「何人にも転移可能な一般妥当的実施法としての運動技術は、・・中略・・複数の個人によって実際の運動経過として実現されることを通して、その公共性が検証されなければならない」という。したがって、この握りなおしが切りかえし技術の下位技術として定立されるためには、複数の個人によって実際の運動経過として実現されなければならない。C大学体操競技部の練習を観察した結果、低棒における倒立からのけ上がりばかりでなく、複数の選手が段違い平行棒の手放し技を持った後の高棒け上がりにおいても、同様の握りなおしを実施していることが確認された。特に遠い位置で再びバーを握った場合に前振りの振幅が大きくなり、「手首固定の操作」(金子、1984、p.311)ができなくなってしまうために握りがずれて浅くなる。このまま振れもどってしまうと握りが外れて落下しかねないため、低棒の切りかえし局面での握りなおし技術を転用してけ上がりを実施しているものと思われる。さらに、男性コーチに鉄棒での実施を練習させた結果、数回の試行によって切りかえし局面における握りなおし技術が転移された。以上のことから、この握りなおしは反動型とも呼べる切りかえし技術の下位技術として位置づけられるものと考えられる。