日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題B】人々の生活に根ざした多様なスポーツ文化をいかに醸成していくか

スポーツ文化研究部会【課題B】口頭発表①

2021年9月8日(水) 09:00 〜 10:15 会場7 (Zoom)

座長:周東 和好(上越教育大学)

09:55 〜 10:15

[スポーツ文化-B-04] 検出不可能な経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いたトレーニング法の問題性

*近藤 良享1、戸田 聡一郎2、小田 佳子3、三浦 裕 (1. 名古屋学院大学、2. 東北大学、3. 金沢大学)

 本発表では、競技スポーツにおける経頭蓋直流電気刺激(tDCS)トレーニング法が選手間の公正性に背くのか、またスポーツの健全性(integrity)に背理するとすればドーピングの方法として規制すべきかを論じる。
 ニューロフィードバックを用いる脳ドーピング(Brain-Doping)の科学的有効性、安全性は現在のところ実証されていない。ところが現実には、Halo New Science社などの企業の主導によって、米スキー代表チーム、NFL候補選手、MLBチームなどがトレーニング法として採用し、たとえば、集中力を高めるための前頭前野(PC)や運動能力を向上させるために一次運動野(M1)、補足運動野(SMA)への刺激に利用している。現状では、一部の選手間で「根拠と安全性なきtDCS」が浸透しつつある。 
 確かに運動の方向性の制御および運動の精緻さとM1、SMAの活動は相関している。しかしながらその相関を表現する関数は、たんなるワンショットの直流電流で簡単に制御できるものではない。
 確かにtDCSは検出不可能で「出し抜こうとする」選手にとっては有望な『脳ドーピング』であっても、逆にパフォーマンスを低下させる可能性もある。たとえばゴルフに要求されるプレー前のtDCS刺激を考えると、SMAへの刺激は運動の精緻さ、coordinationを乱し、PCへの刺激は集中力やプレッシャーへの対応を乱す可能性がある。
 tDCSによるニューロフィードバック法を選手に実践することは、特に安全性から科学的に未熟で将来的に有害になる可能性が否定できない。物理的操作と言えるtDCSは今のWADAの禁止方法に含まれず、検出不可能な方法であることから、この技術がさらに選手間に普及し、技術自体の発展・改良される可能性がある。したがって、スポーツの健全性(integrity)の観点からもドーピング規制への議論を進める必要がある。