日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題B】人々の生活に根ざした多様なスポーツ文化をいかに醸成していくか

スポーツ文化研究部会【課題B】口頭発表③

2021年9月8日(水) 09:00 〜 09:55 会場9 (Zoom)

座長:山口 理恵子(城西大学)

09:35 〜 09:55

[スポーツ文化-B-11] 体育・スポーツ科学の拡大と専門化に伴う問題と研究者が置かれる立場

*髙橋 徹1 (1. 岡山大学)

「日本体育・スポーツ・健康学会」への名称の変更にあたり公開されている趣意書には、その背景にあった課題として、学会の発足当初に比べて研究対象・目的・方法のいずれもが著しく多様化した点、学会に対する社会的要請が変化した点、日本の体育・スポーツ界には体育からスポーツへという潮流が認められる点が挙げられている。これらの課題については、名称変更により解決できたものもあるが、未解決のまま取り置かれているものもある。特に研究対象・目的・方法が多様化している点については、今後もその動きは止まることなく進行し続けるものと予想できる。今後も引き続き学会に所属していく研究者にとって、当該学問分野の在り方を考えることにも繋がるこの課題は、その解決を将来に持ち越した形で据え置かれているのである。
本発表では、体育・スポーツ・健康学分野が直面する課題を考えるにあたり、スペインの思想家オルテガ・イ・ガセットによる大衆批判の一環としての科学と科学者についての論考を引き合いにしつつ、その性質上拡大し続けざるを得ない学問の再編に伴う困難性と、その困難に必然的に向き合わざるを得ない研究者が抱える葛藤を明らかにしたい。また、この議論を補足するために、これまでに展開されてきた体育学からスポーツ科学へという議論、および体育学の分化と統合に関する議論についても整理する。
体育・スポーツ・健康学会として再出発した当該分野の継続的な発展を望むのであれば、研究者には自分自身が取り組んでいる目の前の課題の解明と同時に、学問分野の全体像を把握し、その統合に向けた知見を導き出すための努力が求められると言える。しかし、それは研究者自身にのみ責任が負わされた課題ではなく、学問分野や学会組織の中に研究者一人一人にとっての居場所(トポス)が存在することによって、はじめて主体的に関与し得る課題になると考えられる。