日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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アダプテッド・スポーツ科学/口頭発表①

2021年9月9日(木) 10:15 〜 11:20 会場14 (Zoom)

座長:曽根 裕二(大阪体育大学)、松原 豊(筑波大学)

10:50 〜 11:05

[13 ア-口-03] ランナーと伴走者によるブラインドマラソンにおける「面白さ」の相互行為的構築

「空間の固有性」への協働的対処に着目して

*植田 俊1、山崎 貴史2 (1. 東海大学、2. 北海道大学)

 本研究の目的は、視覚障害者スポーツの「面白さ」が障害者選手と支援する健常者による「空間の固有性」への協働的対処を通じて相互行為的に生み出されることを実証することである。

 視覚障害の特徴は、空間を理解する際に「予期」(=予め検討がつくこと)が成り立ちにくい点にあるが、スポーツはそれを、ピッチやエリアの制定やルールによるプレイの制限によって空間内の「人工性」を高めることによって解消でき、「予測」(=先の展開を予想すること)をすることの楽しみを享受できる活動であるとされてきた。しかし、報告者らは視覚障害者スポーツ特有の「支援者の参画」に着目し、支援者の選手がプレイするピッチやコート、コースといった工夫された空間内でも発生する不確定性・非可変性(非人工性)をもつ要素へいかに対処するかが視覚障害者のプレイの楽しみや面白さを支え得るという仮説を立てて、その検証に取り組んできた。

 具体的には、ブラインドマラソンを事例として自らも伴走者として活動に参与しながら、ランナーへのインタビューや伴走実践経験を積んできた。この方法を通じて、伴走者に求められるコースの把握の仕方やランナーへの伝達方法を明らかにするとともに、記録したランニング中のランナーと伴走者による相互作用データと照らし合わせて、ランナーたちがどのようにしてコースを捉えて理解しているのか、またランナーがブラインドマラソンの面白さをどこに感じているのかを明らかにした。

 その結果、ランナーが感じるブラインドマラソンの面白さは、季節の変化や他の利用者の有無などによって常に非予期的であり可変性の高い空間の中でランニングの制約となる要素を捉えて対処し「より良い走り」を実現することにあることが分かった。そのプロセスにおいて、異なる伴走者の「個性」ある伴走方法に適応することもまた、面白さの構築に重要であることも分かった。