日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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体育史/口頭発表③

2021年9月9日(木) 10:00 〜 10:25 会場3 (Zoom)

座長:坂上 康博(一橋大学)

10:00 〜 10:25

[01 史-口-03] 戦後改革期における体育思想の研究

戦中から戦後への転換に着目して

*小松 恒誠1 (1. 山形大学)

 体育・スポーツ史における「戦中・戦後の断絶的把握」を乗り越えるために、戦後改革期における体育思想を「断絶と連続を含む複合的な過程」として捉え直すことが試みられてきた(高津,1997;久保,1982,1986;草深,1979)。そこでは戦中から戦後への転換について、「身体活動を通しての教育」という理念がすでに戦前から用意されており、「『身体の教育』と『身体活動を通しての教育』という二項対立をもって過去を克服し、未来に向かおうとしたところに、戦後『新体育』の思想的な出発点があった」(高津,1997,p.102)とされている。そして、こうした転換のあり様について、その無反省ぶりが丸山真男著「日本の思想」の一節が引用されながら批判的に論じられる向きがあるように思われる。
 しかし、このような批判的姿勢は歴史像を構築する上ではある種のバイアスとして機能していることは否めない。それは、当時の体育家たちの無反省ぶりへの批判に傾注するあまりに、戦前・戦中の体育家たちが「国家主義」や「帝国主義」、「総力戦体制」に一途に協力する存在として描かれていることに見出される。丹下(1963, p.189)は、戦中における体育・スポーツの状況下では「私の考えていた仕事などは空中分裂という状態で、すっかり自信を失い、やる気力を失って、ついに病気で倒れた」と述べており、必ずしも当時の体育家たちが一様に「国家主義」や「帝国主義」に追随したわけではないことがわかる。
 戦後体育思想の総括にあたっては、こうした体育家たちの戦前・戦中の動向を射程に含めながら論じられる必要があると考えられる。したがって本研究では、そうした分析視角のもとに戦後改革期において体育家たちが展開した体育思想を検討することを目的とした。