[05バ-ポ-02] 反動動作において腱の弾性特性が筋のパワー発揮に及ぼす影響
ジャンプ動作において、反動をつけることでより大きなエネルギーを獲得できる理由の1つとして「腱へのエネルギーの蓄積と再利用」が挙げられる。より多くのエネルギーを蓄えられるという点で腱の柔らかさは反動動作において有利に働くと考えられてきた。実際、腱のスティッフネスによって反動動作のパフォーマンスに差が生まれることを実験的に示した研究も存在する。しかしエネルギーの生成は筋によるものであり、腱におけるエネルギーの蓄積による説明では不十分であると考えられる。そこで本研究では、腱の弾性特性が筋のパワー発揮に及ぼす影響について調べるためにコンピュータシミュレーションを行った。 足関節のみを用いた反動つきジャンプをシミュレーションの対象動作とし、その主働筋である下腿三頭筋およびアキレス腱を、収縮要素、弾性要素、おもりが鉛直方向につながった1次元のHill型モデルにより表現した。線形バネである弾性要素のバネ定数を変えた各モデルについて収縮要素への神経入力信号を最適化し、離地までに最も大きなエネルギーを獲得した動作を比較した。 その結果、弾性要素のバネ定数増大に伴ってパフォーマンスは単調減少することが分かった。また、エネルギーを動作時間と収縮要素の平均発揮パワーに分解したところ、その両者がバネ定数増大に伴って減少していた。動作時間はバネ―質量系の固有周期に大きく影響されるため、バネ定数が大きいときに動作時間が短くなったと考えられる。一方、収縮要素の発揮パワーはかかっている力と収縮速度の積であるが、バネ定数が大きいと弾性要素の伸長に伴う復元力の増大が収縮要素の活動水準の立ち上がる速さを上回り、収縮要素が伸長して負のパワー発揮が起きたことで正味の仕事量が減少したと考えられる。以上のことから、柔らかい腱は筋が反動動作中にする正味の仕事量を大きくできる状況を生み出しパフォーマンスを向上させる可能性が示唆された。