日本体育・スポーツ・健康学会第73回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題C】多様なスポーツ文化の保存・流通・促進をいかに刷新していくか

スポーツ文化研究部会【課題C】口頭発表②

2023年8月31日(木) 13:30 〜 14:29 RY304 (良心館3階RY304番教室)

座長:尾川 翔大(岐阜薬科大学)

14:15 〜 14:29

[スポーツ文化-C-08] スポーツ観戦者による野次の言語行為論的考察(哲)

*髙桑 啓樹1 (1. 筑波大学大学院)

本発表の目的は、野次がスポーツ観戦者にとって有する意味を示すことである。近年、多くのプロスポーツ団体がスポーツ観戦者による野次を排除しようとしている。その背景の1つには、主に家族連れの観戦者にとって「安心・安全な観戦環境」を確保するというプロスポーツ団体のねらいが挙げられる。しかし、その野次は、単に問題のある行為に過ぎないのだろうか。
 スポーツ観戦者による野次の歴史を追っていくと、少なくとも明治時代には、例えば野球などにおいて野次が飛ばされていたことがわかる。明治時代にスポーツが日本へ輸入されてきたことを踏まえると、スポーツ観戦が日本で始まった当初から、野次は発生していたと言える。このことに鑑みると、スポーツを観ることと野次との間には、密接なかかわりがあると考えられる。
 スポーツ観戦者の野次に言及している研究は多くあるものの、そこでは、野次そのものの事象が十分に検討されてこなかった。さらに、それらの研究の対象は、関西地方に限定されていることが多いようである。しかし、関西地方以外においても野次が飛ばされている様子は確認できる。そのため、特定の地域に限られない観戦者の野次を、考察の対象に据える必要があると言える。
 このような先行研究の課題を克服するために、本発表では、言語行為論の視点から、スポーツ観戦者による野次を検討していく。言語行為論では、言語を述べることが行為を遂行することであると考える。そうであるならば、スポーツ観戦者による野次も、行為を遂行することの1つであると言える。このように、野次を言語行為と見なすことにより、野次を飛ばすスポーツ観戦者に着目してそれを考察することができる。さらに、言語行為論の立場から野次を考察することは、特定の地域だけでなく、観戦者による野次の意味を、より広く捉えることを可能にすると考えられる。