[03心-ポ-29] 知的障害者eスポーツクラブでの活動が当事者および当事者家族に与える心理・社会的影響に関する探索的検討
知的障害者の抱える心理社会的な課題として,コミュニケーションや生活行動といった日常生活を送る上で必要なスキルの低さ,それに伴うメンタルヘルスの低下リスクが挙げられる。また当事者家族においても,将来への不安や日々のケアに起因する負担感の大きさから,心理社会的な支援が必要となることが指摘されている。 そこで本研究では,当事者の楽しさや居場所の創出に寄与すると期待できる活動として知的障害者eスポーツクラブに着目した。知的障害者eスポーツクラブの中では,eスポーツだけではなく参加者同士の交流や,eスポーツのトレーニングをはじめとした様々な体験をすることで,心理社会的スキルの向上やメンタルヘルスの維持・改善に寄与することが期待される。加えて,当事者家族にとってもレスパイトケアやピアサポートの場としても機能することが考えられる。以上より本研究では,知的障害者eスポーツクラブに参加する当事者の家族にインタビュー調査を実施し,知的障害者eスポーツクラブに参加する効果の探索的検討を目的とした。 本研究の調査協力者は,eスポーツクラブに参加している当事者の保護者4名であった。調査は半構造化インタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った。分析の結果,eスポーツクラブでの経験を経て当事者が認知・行動スキルの獲得や居場所の獲得,余暇時間の獲得をしていることが示唆された。また,保護者自身にもレスパイトケア,ピアサポートといった効果を有していることが示唆された。 しかし,本研究はまだ理論的飽和に至っていない点が課題に挙げられる。今後は,理論的飽和を目指してデータの知見の蓄積を進めるとともに,当事者の変化を直接観察するような参与観察といった多面的な調査を行うことで,知的障害者eスポーツクラブの持つ機能についてより深く検討を行うことが求められる。