[CS2-4] 本邦における周産期医療の課題-早産と低出生体重児-
研修コード:2504
略歴
1989年 東京医科歯科大学医学部医学科卒業,東京医歯科大学産科婦人科学教室入局
1990年 国保旭中央病院産婦人科医員
1992年 東京都立荒川産院医員
1993年 草加市立病院産婦人科医員
1999年 東京医科歯科大学大学院博士課程卒業,東京医科歯科大学助手
2003年 アルバートアインシュタイン医科大学NMR research center留学
2005年 東京医科歯科大学助教
2007年 東京医科歯科大学講師
2010年 東京医科歯科大学 小児・周産期地域医療学講座(産婦人科) 特任教授
2016年 東京医科歯科大学 大学院生殖機能協関学 教授
1989年 東京医科歯科大学医学部医学科卒業,東京医歯科大学産科婦人科学教室入局
1990年 国保旭中央病院産婦人科医員
1992年 東京都立荒川産院医員
1993年 草加市立病院産婦人科医員
1999年 東京医科歯科大学大学院博士課程卒業,東京医科歯科大学助手
2003年 アルバートアインシュタイン医科大学NMR research center留学
2005年 東京医科歯科大学助教
2007年 東京医科歯科大学講師
2010年 東京医科歯科大学 小児・周産期地域医療学講座(産婦人科) 特任教授
2016年 東京医科歯科大学 大学院生殖機能協関学 教授
我が国では,昭和50年を境に平均出生体重が増加から減少に転じ,以後減少が続いている。また出生体重2500g未満の児を低出生体重児(Low Birth Weight, LBW)と呼ぶが,この割合も増加傾向にあり2011年には9.6%と経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で,トルコの11.0%(2008年),ギリシャの10.0%(2010年)に次いで高い値を示している。近年の欧米における疫学的研究から,LBWは成人後の糖尿病,高脂血症,心臓循環器疾患,うつ病など,いわゆる非感染性疾患(non-communicable diseases, NCDs)の発症と関連性が深いことが証明され,Developmental Origin of Health and Disease学説(DOHaD学説)として広く受け入れられてきており,LBWを減らすことは今後の周産期医療における重要な課題である。
LBWの発生には2つの要因が関連しており,その1つは在胎週数の短縮である。ヒトの妊娠期間は平均でおよそ40週間であり,妊娠37週以降42週未満の分娩を正期産,37週未満の分娩を早産と定義されているが,妊娠期間(胎児にとっては在胎期間)が短くなれば当然出生体重も小さくなる。早産児はその未熟性のため,成熟児に比較して呼吸障害,頭蓋内出血など短期的予後が不良となりやすいが,学童期における発達障害とも関連性が示唆されている。早産の主な原因の1つは絨毛膜羊膜炎を始めとする母体の炎症であり,その原因・病態生理を解明し治療方法を確立することが,LBWを減らすために重要な戦略となる。LBWに関連するもう1つの要因は子宮内における胎児発育不全(Fetal Growth Restriction, FGR)である。胎児は胎盤を介して母体から供給される酸素,栄養によって発育するが,母体の栄養摂取不良,喫煙,胎盤機能不全などによって体重増加不良をきたす。胎児期にこのような慢性的低栄養状態を経験した児は,エピゲノム修飾により摂取エネルギーを消費するより蓄積することを優先するようにプログラミングされ,これが出生後の栄養過多と相互作用してNCDsの発症リスクを高めると考えられている。したがって,胎児発育に悪影響を及ぼす可能性のある母体環境要因を同定しこれを取り除くことが,LBWを減らす2つ目の戦略となる。
世界保健機構(WHO)や国連によれば,総人口のうち65歳以上の高齢者の占める割合が21%を超えた社会を「超高齢社会」と定義されているが,わが国の高齢化率はすでに26%に到達している。さらにこの高齢化は異例の速さで進行しており,2035年には3人に1人が高齢者になると推計されている。DOHaD仮説をそのまま受け入れるとすれば,本邦で出生する児の10人に1人はNCDsの予備軍ということになり,このまま高齢化が進行すると医療費が高騰しいずれ破綻することが目に見えている。そのため,集団ではなく個別のリスク因子を考慮した予防医学,いわゆる「先制医療」の重要性が指摘されている。周産期医療は個々人の人生において最も感受性・可塑性の高い胎児を対象とする分野であり,先制医療を実現するための最初の窓口となりうる。したがってLBWの減少を含め,今後周産期医療の果たす役割は大きい。
LBWの発生には2つの要因が関連しており,その1つは在胎週数の短縮である。ヒトの妊娠期間は平均でおよそ40週間であり,妊娠37週以降42週未満の分娩を正期産,37週未満の分娩を早産と定義されているが,妊娠期間(胎児にとっては在胎期間)が短くなれば当然出生体重も小さくなる。早産児はその未熟性のため,成熟児に比較して呼吸障害,頭蓋内出血など短期的予後が不良となりやすいが,学童期における発達障害とも関連性が示唆されている。早産の主な原因の1つは絨毛膜羊膜炎を始めとする母体の炎症であり,その原因・病態生理を解明し治療方法を確立することが,LBWを減らすために重要な戦略となる。LBWに関連するもう1つの要因は子宮内における胎児発育不全(Fetal Growth Restriction, FGR)である。胎児は胎盤を介して母体から供給される酸素,栄養によって発育するが,母体の栄養摂取不良,喫煙,胎盤機能不全などによって体重増加不良をきたす。胎児期にこのような慢性的低栄養状態を経験した児は,エピゲノム修飾により摂取エネルギーを消費するより蓄積することを優先するようにプログラミングされ,これが出生後の栄養過多と相互作用してNCDsの発症リスクを高めると考えられている。したがって,胎児発育に悪影響を及ぼす可能性のある母体環境要因を同定しこれを取り除くことが,LBWを減らす2つ目の戦略となる。
世界保健機構(WHO)や国連によれば,総人口のうち65歳以上の高齢者の占める割合が21%を超えた社会を「超高齢社会」と定義されているが,わが国の高齢化率はすでに26%に到達している。さらにこの高齢化は異例の速さで進行しており,2035年には3人に1人が高齢者になると推計されている。DOHaD仮説をそのまま受け入れるとすれば,本邦で出生する児の10人に1人はNCDsの予備軍ということになり,このまま高齢化が進行すると医療費が高騰しいずれ破綻することが目に見えている。そのため,集団ではなく個別のリスク因子を考慮した予防医学,いわゆる「先制医療」の重要性が指摘されている。周産期医療は個々人の人生において最も感受性・可塑性の高い胎児を対象とする分野であり,先制医療を実現するための最初の窓口となりうる。したがってLBWの減少を含め,今後周産期医療の果たす役割は大きい。