日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム3 腸内細菌/炎症性腸疾患

2017年12月16日(土) 16:20 〜 17:50 B会場 (Room A)

座長:野口 和行(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野)、山崎 和久(新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)

[CS3-1] 口-腸連関から考える歯周病と全身の関係

山崎 和久 (新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)

研修コード:2504

略歴
1980年 神奈川歯科大学卒業
1985年 新潟大学大学院歯学研究科修了
1985年 新潟大学歯学部附属病院 第二保存科 助手
1986年 クイーンズランド大学(オーストラリア) 研究員(1988年まで)
1996年 日本歯周病学会指導医
1999年 新潟大学歯学部 歯科保存学第二講座 助教授
2004年 新潟大学歯学部 口腔生命福祉学科口腔衛生支援学講座 教授
2007年 日本歯周病学会理事
2010年 新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野 教授
2016年 IADR Distinguished Scientist Award for Basic Research in Periodontal Disease
2017年 国際歯科研究学会(JADR)会長
近年,口腔細菌叢の構成異常(dysbiosis)によって引き起こされる歯周病が糖尿病などの代謝性疾患,動脈硬化性疾患,自己免疫疾患,がんなど,様々な疾患のリスクを高めることが疫学研究により明らかになってきた。因果関係を説明するメカニズムとして歯周ポケットから侵入した細菌・細菌産生物による菌血症,局所で産生された炎症性サイトカインの全身への伝播,歯周病原細菌と生体構成成分の分子相同性に基づく自己免疫応答が挙げられているが,これら生物学的メカニズムに関するエビデンスは決して十分とは言えない。
一方,糖尿病,非アルコール性脂肪肝疾患,動脈硬化症,関節リウマチなど多様な疾患が腸内細菌叢のdysbiosisと関連するという報告が蓄積されており,口腔細菌叢と腸内細菌叢の関係を強く想起させることとなった。歯周病原細菌を含むdysbiosisに陥った口腔細菌を恒常的に飲み込むことで腸内細菌のバランスが崩れ,有害細菌の比率が高まると同時に有害な代謝物が増加する状況が作られる,また腸管免疫系がTh1あるいはTh17が優勢になることで軽微ではあるものの全身的な炎症を惹起すると仮定すると,歯周病による様々な疾患リスクの増加に対する因果関係が合理的に説明できることになる。
そこで我々は,まずC57BL/6マウスに代表的なヒト歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis W83株を口腔から繰り返し投与し,回腸内容物,糞便の細菌叢を網羅的に解析するとともに糖代謝,脂肪組織,肝臓の炎症性変化,遺伝子発現変動について解析した。
その結果,P. gingivalis口腔投与に伴って,腸内細菌叢のバランスが変化することが明らかになったが,同時にP. gingivalisの腸管内への定着・増殖によるものではないことも示された。P. gingivalis投与群では脂肪,肝臓における炎症性サイトカイン遺伝子,インスリン抵抗性関連の発現上昇が認められたが,これらの変化は腸管におけるタイト結合タンパク遺伝子発現の低下とそれに随伴する血中エンドトキシンレベルの上昇に起因すると考えられた。こうした変化はP. gingivalisをわずか1回投与するだけでも誘導されることも明らかになった。さらに,その後の解析で腸管免疫系のバランスにも影響を与えることが明らかになり,コラーゲン誘導関節炎モデルマウスを用いた実験ではP. gingivalis投与により関節炎の重症化が認められた。このモデルにおいても腸内細菌の変化が認められ,同時に腸管免疫系のTh17優勢へのシフトと血中IL-17の有意な上昇も明らかになった。
このように,マウスにおけるP. gingivalis口腔投与の実験結果は,従来の仮説では十分に説明することができなかった歯周病と全身疾患の関連の因果関係を説明するのにきわめて合理的な生物学的分子基盤を提供するのみならず,口腔の健康が全身の健康に直結していることを改めて認識させてくれる。
現在実際の歯周炎患者における口腔細菌叢と腸内細菌叢の解析も進めており,口腔と腸管の興味深い関連を示す結果が得られつつある。