日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム3 腸内細菌/炎症性腸疾患

2017年12月16日(土) 16:20 〜 17:50 B会場 (Room A)

座長:野口 和行(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野)、山崎 和久(新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)

[CS3-2] 炎症性腸疾患と腸内細菌との関わり

大毛 宏喜 (広島大学病院感染症科)

研修コード:2203

略歴
1991年 広島大学医学部卒業,同第一外科入局
2002年 ミネソタ大学大腸外科留学
2004年 広島大学大学院外科学助教
2010年 広島大学病院感染症科教授
潰瘍性大腸炎やクローン病のような炎症性腸疾患では,以前から消化管内の細菌が病因に関与していると考えられてきた。炎症性腸疾患の一部の病態に対して,抗菌薬が有効な場合があることが根拠である。例えば潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘手術後に,肛門に吻合する小腸に回腸嚢炎という炎症をきたす場合がある。全く同じ術式を行う大腸腺腫症では回腸嚢炎を発症しないこと,metronidazoleやciprofloxacinなどの抗菌薬内服が著効することから,回腸嚢炎には特定の菌種が関与していると推察された。しかしこれまで数多くの研究がなされたにもかかわらず,発症の要因となる特定の細菌は同定できていない。
菌種ではなく,特定の物質を産生する菌のグループで検討した結果,回腸嚢炎では硫化水素の産生量が有意に増加しており,抗菌薬内服によって産生が抑制されることが明らかになった。つまり菌そのものではなく,代謝産物が粘膜の炎症に関与している可能性がある。近年の新しい細菌叢解析手法の発達により,炎症性腸疾患における腸管内細菌の研究は急速に進んでいる。メタゲノム解析では機能による分類を行うことで,多数の菌が存在する消化管内の様子を推察することが可能になってきた。また従来の培養法では同定困難であった菌種の存在も明らかになってきている。炎症性腸疾患は消化管内の何らかの抗原刺激に対する粘膜および粘膜下層の免疫応答に炎症の原因がある。今後の研究により,消化管内の菌種もしくは物質と,免疫応答の異常が明らかになれば,治療もしくは予防につながることが期待される。
加えて炎症性腸疾患では口腔内のアフタなど,口腔内病変の合併をしばしば経験し,何らかの細菌の関与が示唆されている。細菌のリザーバーである口腔内が,消化管の炎症に影響を及ぼしている可能性は高い。しかし炎症性腸疾患における口腔内細菌の研究は決して多くない。患者数が増加し続けている炎症性腸疾患での口腔内研究の進歩が望まれる。