[CS3-3] コラーゲン結合タンパクを発現するStreptococcus mutansの全身への影響
研修コード:2203
略歴
1996年3月 大阪大学歯学部卒業
1996年4月 大阪大学歯学部研究生
1996年6月 大阪大学歯学部附属病院研修医(小児歯科)
1997年4月 大阪大学歯学部附属病院医員(小児歯科)
2002年11月 大阪大学博士(歯学)取得
2003年12月 大阪大学歯学部附属病院小児歯科助手
2007年5月 大阪大学歯学部附属病院小児歯科講師
2011年10月 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室准教授
2014年8月 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室教授
現在に至る
1996年3月 大阪大学歯学部卒業
1996年4月 大阪大学歯学部研究生
1996年6月 大阪大学歯学部附属病院研修医(小児歯科)
1997年4月 大阪大学歯学部附属病院医員(小児歯科)
2002年11月 大阪大学博士(歯学)取得
2003年12月 大阪大学歯学部附属病院小児歯科助手
2007年5月 大阪大学歯学部附属病院小児歯科講師
2011年10月 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室准教授
2014年8月 大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学教室教授
現在に至る
歯科の二大疾患は齲蝕と歯周病であり,それぞれに関連する口腔細菌が引き起こす感染症として認知されている。齲蝕は主にグラム陽性通性嫌気性菌であるミュータンスレンサ球菌によって引き起こされる。ヒトにおけるミュータンスレンサ球菌としてはStreptococcus mutansが主要な菌種であり,その約1〜2割の株において菌体表層にコラーゲン結合タンパクを発現していることが分かっている。
抜歯等の観血的歯科治療によって生じる菌血症は広く知られるところであり,患者血液から分離される主要な菌種は口腔レンサ球菌である。実際に,心臓血管外科において心臓弁置換術および大動脈瘤摘出術の際に除去された検体を供与いただきPCR法を用いて検討した結果,各細菌種の存在が確認されたが,S. mutansのDNAの検出率が最大であった。
感染性心内膜炎の起炎菌としては,口腔レンサ球菌のうちStreptococcus sanguinisなどmitisグループの菌種がよく報告されているが,S. mutansもその1つとして知られている。ラットの心臓弁に人工的に傷害を与えた感染性心内膜炎モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性のS. mutans株を頸静脈より投与すると,多数の菌の心臓弁への付着が認められた。実際に,S. mutansが関連する感染性心内膜炎の症例における弁検体では,コラーゲン結合タンパクをコードする遺伝子が多く検出されるため,病原メカニズムに関与する菌体表層タンパクであることが考えられる。
感染性心内膜炎の主要な合併症として脳出血が知られている。脳出血モデルの1つであるマウス中大脳傷害モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を頸静脈より投与すると,傷害を与えた側の脳でのみ著しい出血が誘発された。この現象は,コラーゲン結合タンパク陽性株が血液中に侵入した際に,傷害を受けている内皮に結合して血小板の凝集を妨げることで生じる可能性が考えられた。また,脳出血を発症した患者の口腔には,コラーゲン結合タンパクを発現しているS. mutans株が多く存在しており,脳のMRI画像で観察できる微小出血の跡も多いことも明らかになった。
前述のマウスモデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を投与したマウスの腸において重度の炎症を呈していることが明らかになった。そこで,ヒトにおける潰瘍性大腸炎と類似した所見を示すマウス腸炎モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を頸静脈より投与すると,腸炎悪化の所見が認められた。この現象は,血液中に侵入したコラーゲン結合タンパク陽性株が肝臓実質細胞に取り込まれることによってINF-γなどのサイトカインを産生されることで免疫機構の不均衡を引き起こすことによって生じることが示唆された。
これまでの研究から,主要な齲蝕原性細菌であるS. mutansのうちコラーゲン結合タンパク陽性株が何らかの原因で血液中に侵入すると,様々な全身疾患を引き起こす可能性が示された。今後,各種疾患を扱う臨床医との連携を強化して,臨床応用につながる知見を得たいと考えている。
抜歯等の観血的歯科治療によって生じる菌血症は広く知られるところであり,患者血液から分離される主要な菌種は口腔レンサ球菌である。実際に,心臓血管外科において心臓弁置換術および大動脈瘤摘出術の際に除去された検体を供与いただきPCR法を用いて検討した結果,各細菌種の存在が確認されたが,S. mutansのDNAの検出率が最大であった。
感染性心内膜炎の起炎菌としては,口腔レンサ球菌のうちStreptococcus sanguinisなどmitisグループの菌種がよく報告されているが,S. mutansもその1つとして知られている。ラットの心臓弁に人工的に傷害を与えた感染性心内膜炎モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性のS. mutans株を頸静脈より投与すると,多数の菌の心臓弁への付着が認められた。実際に,S. mutansが関連する感染性心内膜炎の症例における弁検体では,コラーゲン結合タンパクをコードする遺伝子が多く検出されるため,病原メカニズムに関与する菌体表層タンパクであることが考えられる。
感染性心内膜炎の主要な合併症として脳出血が知られている。脳出血モデルの1つであるマウス中大脳傷害モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を頸静脈より投与すると,傷害を与えた側の脳でのみ著しい出血が誘発された。この現象は,コラーゲン結合タンパク陽性株が血液中に侵入した際に,傷害を受けている内皮に結合して血小板の凝集を妨げることで生じる可能性が考えられた。また,脳出血を発症した患者の口腔には,コラーゲン結合タンパクを発現しているS. mutans株が多く存在しており,脳のMRI画像で観察できる微小出血の跡も多いことも明らかになった。
前述のマウスモデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を投与したマウスの腸において重度の炎症を呈していることが明らかになった。そこで,ヒトにおける潰瘍性大腸炎と類似した所見を示すマウス腸炎モデルにおいて,コラーゲン結合タンパク陽性株を頸静脈より投与すると,腸炎悪化の所見が認められた。この現象は,血液中に侵入したコラーゲン結合タンパク陽性株が肝臓実質細胞に取り込まれることによってINF-γなどのサイトカインを産生されることで免疫機構の不均衡を引き起こすことによって生じることが示唆された。
これまでの研究から,主要な齲蝕原性細菌であるS. mutansのうちコラーゲン結合タンパク陽性株が何らかの原因で血液中に侵入すると,様々な全身疾患を引き起こす可能性が示された。今後,各種疾患を扱う臨床医との連携を強化して,臨床応用につながる知見を得たいと考えている。