日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム3 腸内細菌/炎症性腸疾患

2017年12月16日(土) 16:20 〜 17:50 B会場 (Room A)

座長:野口 和行(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野)、山崎 和久(新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)

[CS3-4] 統合オミクス手法による腸内細菌叢研究

大野 博司 (国立研究開発法人理化学研究所統合生命医科学研究センター粘膜システム研究グループ・神奈川県立産業技術総合研究所[腸内細菌叢]プロジェクト)

研修コード:2203

略歴
1983年千葉大学医学部を卒業し,千葉大学医学部麻酔学教室入局。1987年千葉大学大学院医学研究科に入学し,免疫学,特にT細胞受容体の構造と機能の研究に従事。1991年同修了,医学博士。千葉大学医学部助手,助教授を経て1999年金沢大学がん研究所教授。腸管免疫学の研究に従事。2004年理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターチームリーダー。2013年より現職。
2015年度第20回安藤百福賞大賞受賞。2016年度第53回ベルツ賞(2等賞)受賞。
ヒトを含む動物の腸内には膨大な数の細菌が棲息しており,腸内細菌叢と総称される。特にヒト大腸に共生する細菌数は40兆個以上と,ヒトのからだを形成する体細胞数約30兆個よりも多い。さらに,その遺伝子は集団として約60万とヒトの約2万を悠に凌駕し,複雑な代謝系を構築して様々な代謝物を産生し,われわれ宿主の生理・病理に多大な影響を及ぼしている。
近年のメタゲノム解析をはじめとする解析技術の進歩と共に,炎症性腸疾患などの消化器疾患に限らず,糖尿病や動脈硬化症などの代謝・循環器疾患,アレルギーや自己免疫疾患などの免疫疾患,さらには自閉症スペクトラムなどの脳神経疾患で腸内細菌叢の正常からの逸脱(dysbiosis)が見られること,さらに,dysbiosisは単に疾患の結果ではなく疾患の発症要因となり得ることや,dysbiosisの是正が疾患の治療・予防効果をもたらすことも明らかとなりつつある。
演者らは宿主-腸内細菌相互作用を分子レベルで理解するために,網羅的遺伝子解析手法である(メタ)ゲノムに加え,網羅的遺伝子発現調節解析であるエピゲノム,網羅的遺伝子発現解析である(メタ)トランスクリプトーム,網羅的代謝物定量解析であるメタボロームといった,異なる階層の網羅的解析を組み合わせた「統合オミクス手法」を提唱してきた。その結果,無菌マウスのモデル系を用いて,ビフィズス菌が産生する酢酸が大腸上皮の遺伝子発現状態を変化させることにより腸管出血性大腸菌O157による感染死を予防することを見いだした。また,腸内細菌が産生する酪酸が,ヒストン脱アセチル化酵素阻害によるエピゲノム制御を介して大腸での制御性T細胞の分化を促進することも明らかにした。さらに,自己免疫性の脱髄疾患である多発性硬化症と腸内細菌の関係について,多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎を用いた解析から,小腸に存在する細菌がその発症に大きく関与していることを示唆する知見を得ている。このように,統合オミクス手法は宿主-腸内細菌相互作用を理解するのに適した手法である。