60th Annual Meeting in Autumn

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ランチョンセミナー

ランチョンセミナー10

Sun. Dec 17, 2017 12:10 PM - 1:00 PM E会場 (Room B-1)

座長:諸星 裕夫(ライオン歯科材株式会社)

共催:株式会社モリタ/ライオン歯科材株式会社

[LS10] 根面う蝕予防への挑戦 ~大人へのフッ化物応用と根面う蝕予防ケア

荒川 浩久 (神奈川歯科大学大学院口腔科学講座)

研修コード:2501

略歴
1977年 神奈川歯科大学卒業
2000年 神奈川歯科大学教授
2009年 厚生労働科学研究「フッ化物応用の総合的研究班」主任研究者(3年間)
2009年 ISO/TC106WG4エキスパート(2012年よりWG43,2017年よりWG10追加)
2017年 根面う蝕予防のためのセルフケアによるフッ化物応用(日本歯科医師会雑誌)
2017年 フッ化物局所応用実施マニュアル(社会保険研究所)
2017年 すべての患者さんへのフッ化物活用術(インターアクション)
超高齢社会に突入した日本は,2013年から健康日本21(第2次)を開始し「健康寿命の延伸」を目指している。この第2次では「う蝕と歯周病を予防し多くの歯を残し,活発な咀嚼を続け,健康寿命を延伸する」というロードマップが示された。2016年歯科疾患実態調査結果によれば,8020達成者は51.2%と,すでに2022年度までの目標の50%以上を達成できている。また,小児う蝕の減少は継続しているが,高齢者のう蝕保有者の割合と4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は増加している。このように,小児と若い成人のう蝕は減少し,高齢者の残存歯も増加しているが,これに伴う歯周病と歯根露出に起因する根面う蝕が歯科の大きな課題となっている。これからは「根面う蝕予防ケア」に注目すべきである。
根面う蝕は,歯の破折と喪失につながるため,発生を予防する第一次予防が重要である。しかしながら,歯根象牙質はエナメル質より酸に溶解しやすく,プラークコントロールしにくいため,う蝕に罹患のリスクが高い。かつ,根面う蝕はサイレントに進行し発見しづらいなどの特徴があるため,新しい発想に基づく根面う蝕予防ケアを導入すべきである。
う蝕予防の有効性が最高位なのはシーラント処置とフッ化物応用であるが,根面う蝕予防にシーラントは利用できない。そこで,消費者が最も利用しやすいフッ化物配合歯磨剤による新しい根面う蝕予防ケアを提案したい。フッ化物配合歯磨剤の根面う蝕予防の有効性については,1988年に1,100ppm F濃度のフッ化物配合歯磨剤を二重盲検法にて1年間使用した結果,歯冠部う蝕の予防率は41%であったのに対し,根面う蝕は67%であったと報告されている。また1,000ppm Fフッ化物配合歯磨剤に比べ,より高濃度のフッ化物歯磨剤のほうが,根面う蝕の予防効果が高いことも判明している。
このような状況下で2015年11月に誕生したCheck-Up rootcare(チェックアップルートケア)は,本年7月に生まれ変わった。フッ化物濃度が950ppmから1,450ppmへと高濃度化したのである。エナメル質へのフッ化物滞留性向上のためのカチオン化セルロースは従来どおり添加されている。また根面う蝕は,ミネラルの溶解に引き続き,象牙質の有機成分であるコラーゲンが分解されてう窩を生じることから,象牙質の脱灰抑制とコラーゲンの分解抑制の有効性が実験的に認められているピロリドンカルボン酸(PCA)も添加されている。さらに,歯肉炎と口臭予防の薬用成分である塩化セチルピリジニウム(CPC)と知覚過敏予防の薬用成分である硝酸カリウムも配合され,まさに現代の歯科課題である歯周病,根面う蝕,知覚過敏のケアに対処できるオールインワンのツールといえる。
最後に,現在までのフッ化物による歯周病予防の可能性についても触れたいと予定している。疫学研究によれば,水道水フッ化物濃度が低い地域の住民ほど歯周ポケットを有する者が多いという所見が得られているし,動物実験でも興味深い所見が得られている。フッ化物でう蝕と歯周病が予防できれば,歯科にとって最大の武器となる。