60th Annual Meeting in Autumn

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ランチョンセミナー

ランチョンセミナー11

Sun. Dec 17, 2017 12:10 PM - 1:00 PM F会場 (Room B-2)

座長:西原 廸彦(にしはら歯科医院)

共催:株式会社カイマンデンタル

[LS11] インプラント周囲溝のSealing技術と成果 ~増えゆくインプラント周囲疾患と今後

鈴川 雅彦 (AICデンタルクリニック)

研修コード:2609

略歴
1992~1994年 岡山大学歯学部卒業,咬合・口腔機能再建学分野
1994~2002年 サンスター千里歯科診療所
2000年 University of North Carolina at Chapel Hill, School of dentistry, Grad Perio
2005年 AICデンタルクリニック開院
2013年 広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門 歯周病態学研究室
口腔内の微弱炎症の継続は,全身の健康に悪影響を与えることが次々と報告されている。医科歯科の連携が粛々と進んでいく中,日本は超高齢社会に突入し欠損補綴としてインプラント治療を受ける患者数は増加の一途をたどり,それに伴いインプラント周囲疾患も増加傾向にある。インプラント治療に使用されるマテリアルの性格上,インプラント周囲には深いインプラント周囲溝が形成され,後に細菌バイオフィルムの形成や炎症の惹起があり,その延長線上には不可逆的な組織破壊がある。インプラント周囲組織への感染を予防するためには,細菌感染の入り口であるインプラント表面と軟組織の接合部分を制御する手法が必要であると考えられるが,近年これらをより強く結合させる技術革新が存在する。インプラント周囲への感染制御は今後の課題であり難題でもある。
インプラント周囲疾患は,炎症がインプラント周囲軟組織に限局したインプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲骨の吸収を伴うインプラント周囲炎に分類され,インプラント撤去の第一の原因とされている。インプラント周囲疾患は歯周炎と酷似していると言われる。インプラント周囲溝に細菌が侵入し,感染,免疫応答,その後組織の自己破壊に至る疾患である。インプラント周囲溝において,インプラント表面と近接する上皮細胞は,接着するためにラミニンなどの接着タンパクが必要であるが,天然歯と比較してラミニンの発現量が小さい事から,細胞接着はかなり弱いと考えられる。インプラント周囲疾患の発症を制御していくためには,細菌の入り口であるインプラント周囲溝をいかにして管理するかが鍵となる。インプラント周囲疾患の発症は,インプラント粘膜貫通部のインプラント表面と軟組織の生物学的連続性を失っている事にあると推察される。
J. Ricciらはインプラント表面にmicrotextured surface(12×12μmのgrooveが付与されたgroove)を付与すると,上皮細胞,線維芽細胞,骨芽細胞がそのgrooveに沿ってオリエンテーションを起こす事を証明した。これらのgrooveを水平方向のみに形成させたインプラント体を埋入したところ,歯周組織にみられる結合組織性付着に似た病理組織像が確認できた。インプラント周囲粘膜中のコラーゲン繊維はインプラントと同軸方向に走行する事が従来から報告されていたが,microtextured surfaceにおいては,垂直にコラーゲンが交わっている事が確認できた。このgrooveが水平のみに形成されていることで,上皮細胞のdown-growthを抑制し下部に結合組織のみが付着する環境が整う事で,軟組織の安定並びに結果としてインプラント周囲骨の吸収の遅延を図る事ができた。
またI. Kangasniemiらはチタン表面にナノサイズで調整されたTiO 2皮膜をコーティングすると,インプラント周囲軟組織が接着する事を証明した。その皮膜は,上皮細胞,繊維芽細胞,骨芽細胞および血管内皮細胞を接着させ,細菌感染を抑制する可能性を示唆した。この技術はインプラントフィクスチャーやアバットメントに応用でき,加えてチタンのみならずジルコニアにも被覆可能な技術である事から,インプラントの種類を問わず臨床においてインプラント周囲疾患の予防策となる事が期待される。