60th Annual Meeting in Autumn

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ランチョンセミナー

ランチョンセミナー6

Sat. Dec 16, 2017 12:00 PM - 12:50 PM G会場 (Room D)

共催:株式会社松風

[LS6] キシリトールとエリスリトール:歯周病予防にはどっち?

天野 敦雄 (大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座 予防歯科学分野)

研修コード:2504

略歴
1984年 大阪大学歯学部 卒業
1987年 大阪大学歯学部 予防歯科学講座 助手
1992年 ニューヨーク州立大学歯学部 ポスドク(1994年12月まで)
1997年 大阪大学歯学部 障害者歯科治療部 講師
2000年 大阪大学歯学研究科口腔分子免疫制御学講座 教授
2015年 大阪大学歯学研究科長・歯学部長

学会
日本口腔衛生学会理事,日本歯周病学会会員
キシリトールがう蝕予防効果を発揮することは,広く知られている。一方,キシリトールと同じ糖アルコール甘味料であるエリスリトール(erythritol; エリトリトールとも呼ばれる)も,ミュータンス連鎖球菌への抗菌性をもち,う蝕予防効果を発揮する。しかし,エリスリトールの社会的認知度はあまり高くはない。
エリスリトールは「ほぼゼロカロリー」「砂糖の70%の甘み」「血糖値を上昇させない」「ほぼ副作用が無い」ことから,ダイエット甘味料として利用されている。また,バイオフィルムを分散させる作用があるとして,歯磨剤への配合や,エリスリトール含有パウダーを使用した歯面・根面清掃機器も販売されている。
2013年,我々はエリスリトールが歯周病菌Porphyromonas gingivalisへの抗菌性を発揮することを報告した (Hashino et al, Mol Oral Microbiol)。その3年後,de Cockらが,Erythritol is more effective than xylitol and sorbitol in managing oral health endpoints (Int J Dent, 2016) という刺激的なタイトルのreviewを発表した。このreviewでは,エリスリトールのう蝕予防効果を支持する報告が,基礎研究,臨床研究ともに多く紹介されている。一方,歯周病予防に関する報告は,我々の基礎研究とエリスリトールパウダーを用いた4つの臨床研究だけであり,やや見劣りがする。更なるエビデンスの集積がまたれるが,エリスリトールが歯周病予防効果をもつ可能性は高い。
今回,我々の以下の研究結果をもとに,エリスリトールの臨床応用の意義を探る。
①共焦点レーザー顕微鏡観察:S. gordoniiP. gingivalisによるin vitro混合バイオフィルムモデルに添加されたエリスリトールは,キシリトール,ソルビトールに比べ,P. gingivalisのバイオフィルム形成を顕著に抑制した。
②プロテオミクス解析:エリスリトール添加により,P. gingivalisの解糖系や核酸合成に関連する酵素群などの発現に影響が認められるとともに,同菌のタンパク分解酵素の発現を抑制した。
③メタボロミクス解析:エリスリトールはP. gingivalisの核酸合成経路であるプリンおよびピリミジン代謝経路を濃度依存的に抑制した。また,アミノ酸,糖鎖修飾関連物質や菌体相互作用関連物質にも量的変化がみられた。
④ガスクロマトグラフ解析:エリスリトールはP. gingivalisの口臭物質(揮発性硫化物)の産生を濃度依存的に抑制した。
以上の結果は,エリスリトールがう蝕予防だけではなく,歯周病予防の効果も合わせもつことを強く示唆している。