[SY5-3] 実践知から考える口腔インプラント治療の将来展望
研修コード:2609
略歴
1988年 岡山大学歯学部歯学科卒業
1992年 岡山大学大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1993年 英国グラスゴー大学歯学部(Prof. Denis F. Kinaneに師事)
1996年 岡山大学歯学部助手
1999年 明海大学歯学部講師
2006年 明海大学歯学部助教授
2007年 奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野教授 現在に至る
日本歯周病学会常任理事(口腔インプラント委員会委員長)
日本歯科保存学会常任理事
日本顎咬合学会指導医
1988年 岡山大学歯学部歯学科卒業
1992年 岡山大学大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1993年 英国グラスゴー大学歯学部(Prof. Denis F. Kinaneに師事)
1996年 岡山大学歯学部助手
1999年 明海大学歯学部講師
2006年 明海大学歯学部助教授
2007年 奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野教授 現在に至る
日本歯周病学会常任理事(口腔インプラント委員会委員長)
日本歯科保存学会常任理事
日本顎咬合学会指導医
口腔インプラント治療は何らかの原因で歯を失った患者に対して適応されるが,原因と考えられる外傷,歯根破折,医原病,う蝕および歯周病に対する治療や予防を実践しなければ合併症を生じる確率が上がる。歯周病患者に対してインプラント治療を適応する頻度が増すにつれて,インプラント周囲疾患,とりわけインプラント周囲炎が社会問題になっている。インプラント周囲炎の病因,定義,分類および治療が世界中で検討されているが,コンセンサスを得るには至っていない。インプラント周囲炎を歯周炎と同様に感染性疾患として捉える学派がいる一方,異なる見解も報告されている。
医科と歯科における疾患の定義は「実在論」でなく「唯名論」的に行なわれ,原因が明らかではない疾患を症候群的に分類し,診断と治療のエビデンスが試行錯誤を繰り返しながら積み上げられている。コンセンサスレポートが数年ごとに発表されるが,インプラント周囲炎の定義さえ確立されていない。演者は歯周炎やインプラント周囲炎のような多因子性の慢性疾患は「複雑系」として捉え,ビッグデータの集積が不可欠と考えている1),これまでの要素還元主義的発想では,疾患の予防や治療に有効な手段は見出せないであろう2)。
複雑系とされる天気の変動や地震の予知は現在でも難しく,人間は複雑系の最たる対象といえる。医学や歯学は「人間を扱う科学」であり,科学が苦手とする複雑系で説明される領域と考えられることから「未成熟科学」に定義されている。観察結果と各種検査結果から蓋然性の高い原因を推論するが,不確実性が常に存在する(前後即因果の誤謬)。
疫学は原因が不明瞭な現象に対して統計を利用して可能性の高い原因を絞り込み,対策を提言する試みで,インプラント周囲炎の診断と治療法の確立にも有効である。もっとも,臨床の場では,インプラント治療を行う部位の3次元的形態や骨質,術者の治療レベルおよび補綴装置の精度など不確実性が残る。インプラント周囲炎の病因には医原病も関わると考えられるため,適切な指導者の下でトレーニングを受けて治療の「暗黙知」を習得すること,さらに習得した治療技術や感覚を「形式知」に転換して継承する教育システムの構築が望まれる。
大学病院では,補綴科,口腔外科,歯周病科あるいはその他の診療科が連携して治療するケースが多く,分業の利点よりも欠点が懸念される。演者らは歯周病患者の口腔インプラント治療を歯周病科単科で実践しており,上部構造装着後の観察結果から,過去の報告と同様に生存率は99%と高いが,合併症も経験する。現在,疫学研究を通して各種リスク因子を評価しつつ,合併症を起こした症例からは人工骨を用いた骨増大術,スレッドの露出,咬合力の問題およびインプラント体の表面性状の関与について省察・検討している。
1)高橋慶壮 日歯周誌 55:121-31, 2013.
2)高橋慶壮 日歯周誌 58:236-53, 2016.
医科と歯科における疾患の定義は「実在論」でなく「唯名論」的に行なわれ,原因が明らかではない疾患を症候群的に分類し,診断と治療のエビデンスが試行錯誤を繰り返しながら積み上げられている。コンセンサスレポートが数年ごとに発表されるが,インプラント周囲炎の定義さえ確立されていない。演者は歯周炎やインプラント周囲炎のような多因子性の慢性疾患は「複雑系」として捉え,ビッグデータの集積が不可欠と考えている1),これまでの要素還元主義的発想では,疾患の予防や治療に有効な手段は見出せないであろう2)。
複雑系とされる天気の変動や地震の予知は現在でも難しく,人間は複雑系の最たる対象といえる。医学や歯学は「人間を扱う科学」であり,科学が苦手とする複雑系で説明される領域と考えられることから「未成熟科学」に定義されている。観察結果と各種検査結果から蓋然性の高い原因を推論するが,不確実性が常に存在する(前後即因果の誤謬)。
疫学は原因が不明瞭な現象に対して統計を利用して可能性の高い原因を絞り込み,対策を提言する試みで,インプラント周囲炎の診断と治療法の確立にも有効である。もっとも,臨床の場では,インプラント治療を行う部位の3次元的形態や骨質,術者の治療レベルおよび補綴装置の精度など不確実性が残る。インプラント周囲炎の病因には医原病も関わると考えられるため,適切な指導者の下でトレーニングを受けて治療の「暗黙知」を習得すること,さらに習得した治療技術や感覚を「形式知」に転換して継承する教育システムの構築が望まれる。
大学病院では,補綴科,口腔外科,歯周病科あるいはその他の診療科が連携して治療するケースが多く,分業の利点よりも欠点が懸念される。演者らは歯周病患者の口腔インプラント治療を歯周病科単科で実践しており,上部構造装着後の観察結果から,過去の報告と同様に生存率は99%と高いが,合併症も経験する。現在,疫学研究を通して各種リスク因子を評価しつつ,合併症を起こした症例からは人工骨を用いた骨増大術,スレッドの露出,咬合力の問題およびインプラント体の表面性状の関与について省察・検討している。
1)高橋慶壮 日歯周誌 55:121-31, 2013.
2)高橋慶壮 日歯周誌 58:236-53, 2016.