第83回日本公衆衛生学会総会

セッション情報

特別企画

特別企画:パネルディスカッション 「ともにいきる」を実現するために~性や多様性と向き合うには正解ではなく対話を~

2024年10月31日(木) 10:45 〜 12:35 第4会場 (札幌コンベンションセンター 中ホール)

パネリスト:岩室 紳也(ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ))、門下 祐子(京都教育大学教育創生リージョナルセンター機構総合教育臨床センター)、平良 愛香(日本キリスト教団川和教会)、古川 潤哉(浄土真宗本願寺派 浄誓寺)

「ともにいきる」という言葉を聞いて、皆さんはどのような人たちが「ともにいきる」社会を想像されたでしょうか。「障害者」と「健常者」。「異性愛者」と「セクシャルマイノリティの人」。「健康な人」と「病気を抱えた人」。「〇〇に感染している人」と「〇〇に感染していない人」などなど数えればきりがないでしょう。性の分野ではLGBT理解増進法が成立し、中高の教科書にも性の多様性が記述されるようになりました。しかし、どこまで理解が進み、この法律が実効をあげているのでしょうか。さらに言うと、ご自身が異性愛者を自認したり、体と心の性の不一致を自覚されていない方は、正直な所、LGBTQ+の方々を本当に理解したりできますか。逆もしかりです。
パネルディスカッションの司会進行を務めさせていただく岩室紳也は、保健所医師としてHIV/AIDSの予防啓発活動に取り組み、HIV感染を予防するには「ノーセックスかコンドーム」という正解を声高に紹介していました。しかし、HIV/AIDSの患
者さんの診療をするようになり、感染した人たちはこのシンプルな正解を守れず、このメッセージに傷つき、岩室の外来を受診することをためらうことに気づかされました。
さらにHIVに感染する人の多くがゲイの人を含めたMSM(男性とセックスをする男性)の人だということは承知していたものの、正直な所当初はゲイの人のことを理解どころか受け入れることもできませんでした。しかし、実際に友人にゲイをカミ
ングアウトされた時に、「なぜゲイ?」と問いかけたところ逆に「岩室さんはなぜ異性愛者?」と問われ返答に窮するだけではなく、自分自身が正解依存症だと思い知らされました。岩室が考える正解依存症とは、「自分なりの正解を見つけると、その正解を疑うことができないだけではなく、その正解を他の人にも押し付ける、自分なりの正解以外は受け付けない、考えられない病んだ状態」です。
パネルディスカッションでは今でもコンドームの達人を公言し活動している公衆衛生医が、障害のある人への包括的性教育について思索する女性研究者、自らがゲイであることをカミングアウトしている牧師、地域の学校で熱心に性教育に取り組む僧侶との対話を通して、いま、「ともにいきる」を実現するために、いま公衆衛生分野のみならずこの社会を生きる一人ひとりに求められていることを考えます。

パネリスト:岩室 紳也(ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ))、門下 祐子(京都教育大学教育創生リージョナルセンター機構総合教育臨床センター)、平良 愛香(日本キリスト教団川和教会)、古川 潤哉(浄土真宗本願寺派 浄誓寺)