○奥村 正紀 (大石記念病院精神科)
セッション情報
委員会シンポジウム
委員会シンポジウム10
電気けいれん療法(Electroconvulsive therapy:ECT)の新たな局面
2023年6月22日(木) 10:45 〜 12:45 Q会場 (パシフィコ横浜ノース 4F G418+G419)
司会:高橋 英彦(東京医科歯科大学病院), 中村 満(医療法人社団翠会成増厚生病院)
メインコーディネーター:鮫島 達夫(特定医療法人勇愛会大島病院精神科)
サブコーディネーター:奥村 正紀(大石記念病院精神科)
委員会:ECT・rTMS等検討委員会
わが国では,静脈麻酔薬と筋弛緩薬を使用した全身麻酔下に行うECT(modified ECT:m-ECT)の施行や,認知機能への影響が大きいサイン波治療器から影響の少ないパルス波治療器への変更が諸外国と比較すると遅かった.当委員会ではこの状況をふまえ,講習会やシンポジウムを通じて,安全なECTが行われるように努めてきた.講習会を受講することで,パルス波治療器の使用の資格が得られ,現在まで2,500名近くの会員が参加している.当委員会が発足して21年経過しているが、発足当時には無かった問題点もみられるようになり,ECTは新たな局面を迎えている.ECT施行対象となる症例の高齢化によって,合併症や施行時の有害事象の予防のために,片側型ECTなどの技術の工夫だけでなく,術前管理が必要となる症例が増えてきている.高齢者の心房細動,動脈硬化症,脳卒中の既往などが増加し,精神科領域では深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防のために,抗凝固薬の使用が増えてきている.抗凝固薬使用時には頻回な凝固機能の検査が必要であり精神科での使用はハードルが高かったが、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場によって精神科領域での抗凝固薬の使用頻度も増えてきている.外科手術などでは術前に中止もしくは他剤に変更するが,ECT施行時には継続されることも多い.ECTの有害事象として口腔内出血もあり,抗凝固薬内服中の症例には注意しなければならない点も多い.麻酔科領域で使用される薬剤も以前とは変わってきている.外科手術で使用される非脱分極性筋弛緩薬がロクロニウムとなっている.ロクロニウムは、選択的な筋弛緩拮抗薬スガマデクスを使用することで急速に自発呼吸の回復が可能となるため,ほとんどの手術でこの薬剤が使用されるようになってきている.ECTの麻酔で使用されることも散見されてきてはいるが、薬価が高く,頻回に全身麻酔を行うECTでは依然として脱分極性筋弛緩薬であるスキサメトニウムが主流である.しかし,2022年にスキサメトニウムの生産継続の困難が製薬会社より報告され,今後は筋弛緩薬をロクロニウムへ変更していくことも迫られている.また,超短時間型オピオイドであるレミフェンタニルの出現で,ECTの静脈麻酔薬を減量してけいれん閾値の上昇を抑えたり、ECTで起こる急激な循環動態の変化も減らすことができるようになってきている.これらの薬剤の使用時には麻酔科的な知識,技術,経験も必要である.全国的には麻酔科標榜医がECTの麻酔を行うことが増えてきてはいるものの,麻酔科医の確保が困難な施設では精神科医が麻酔を行うことがあるのも現状である.今回のシンポジウムでは, ECTの麻酔管理の変遷について奥村正紀先生,筋弛緩薬をスキサメトニウムからロクロニウム・スガマデクスに変更した麻酔管理について鈴木孝浩先生,抗凝固薬使用時のECTについて平田卓志先生に,精神科病院におけるECTの問題点・課題について鮫島達夫先生に講演をお願いし,ECTの安全性がより高まるためには何が必要かを議論する機会としたい.
○鈴木 孝浩 (日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野)
○平田 卓志 (山梨大学医学部附属病院)
鮫島 達夫1, 門井 雄司2, 奥村 正紀3, ○中村 満4, 大西 良5, 一瀬 邦弘6 (1.特定医療法人勇愛会大島病院精神科, 2.群馬大学医学部附属病院, 3.医療法人社団八葉会大石記念病院, 4.医療法人社団翠会成増厚生病院, 5.医療法人水の木会下関病院, 6.特定医療法人社団聖美会多摩中央病院)
○中村 満 (医療法人社団翠会成増厚生病院)