第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

オンデマンド配信限定セッション

オンデマンド配信限定セッション3
「医療保護入院」という体験のもつ意味、この制度の廃止・縮減がもたらすことの意味

司会:伊藤 順一郎(メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ), 渡邉 真里子(ちはやACTクリニック)
メインコーディネーター:伊藤 順一郎(メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ)
サブコーディネーター:渡邉 真里子(ちはやACTクリニック)

厚生労働省の「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」では、2022年3月16日に行われた会合で、医療保護入院の廃止・縮減の方向性が提示された。その後、この文言は雲散霧消したが、一回でも検討会のまとめとして「医療保護入院の廃止・縮減」が明示されたことの意義は大きい。
医療保護入院は長い歴史をわが国では持っている制度であるが、多くの場合一民間人である精神科医が、指定医の資格さえあれば、たった一人の判断で強制入院、強制的な治療(身体拘束、隔離、非同意の薬物投与)をおこなう権限を持つという事態は、患者の人権擁護の観点からのみならず、国際的な精神医療制度の水準から見ても異様と言わざるを得ない。さらに、その強制入院の期間について、事実上、無期限の可能性もありうるということも、精神障害を持つ人々の人権を脅威にさらしている。これは患者、家族ばかりでなく、精神医療に関わる全ての従事者にとって、重く苦しい事態ではないかと推測する。
本シンポジウムの企画者は医療者であるが、精神医療を一般医療と同様、限りなく患者本人の健康に益するように取り組むべき医療行為と考えている。このような文脈において「医療保護入院」という体験は、どのような意味を持つのか、また、医療保護入院を廃止・縮減することは、精神医療をどのように変えていく可能性を持つのか。これらのことを検討するために本シンポジウムは企画された。
登壇者は、当事者団体にも所属し、多くの入院者の声をきく体験も持つ当事者、家族会に所属し、また、ご自身の家族に強制入院の体験を有するご家族、地域医療も視野に急性期の入院治療に取り組んでいる病院勤務の精神科医、地域でアウトリーチ活動なども積極的に実践している精神科医、そして、昨年度、日弁連の活動として入院経験者へのアンケート・インタビュー調査に関わった弁護士である。
シンポジウムでは、人間の尊厳を保ち、不必要な自由の制約をすることなく、患者本人の精神的健康に益するものとして、精神科の治療を確立するために、現場にいる者たちの今後の取り組みには、どのようなことが必要なのかを、フロアからの発言も含め、多面的な議論が展開することを期待している。