JSPN119

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オンデマンド配信限定セッション

オンデマンド配信限定セッション4
鍼灸師と精神科医の相互連携の意義

司会:中村 元昭(昭和大学発達障害医療研究所), 砂川 正隆(昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門)
メインコーディネーター:中村 元昭(昭和大学発達障害医療研究所)
サブコーディネーター:松浦 悠人(東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科)

鍼灸はわが国の伝統医療であり、鍼や灸を用いて体表を刺激し、体性感覚の賦活によって生じる生体反応を活用した治療法である。鍼灸治療の適応は多岐にわたり、1996年にWHOで議論された鍼灸の適応症にはうつ病や神経症など精神疾患も含まれている。2000年代には海外を中心にうつ病に対する鍼灸治療のランダム化比較試験(RCT)が急増し、質の高いRCTの結果が一流医学雑誌に掲載されている。これらのRCTを統合した2018年のCochrane review(Acupuncture for depression)では、抗うつ薬単独と鍼治療併用およびplacebo鍼治療との比較によりうつ病に対する鍼治療の有効性が示唆されている。このように、精神科薬物療法と鍼灸の併用は、精神疾患患者に有益な効果をもたらすことが期待されている。鍼灸は数千年の歳月を生き延びた先人の智慧であるが、明治維新以降、鍼灸は民間療法などとして医療システムから切り離された。そのため、現在のわが国では地域に根付いた「鍼灸院」が受療の最前線である。国内の鍼灸院の数は約3万2千(令和2年度)あり、鍼灸師は地域医療における東洋医学のスペシャリストとして国民の健康の維持・増進に貢献している。しかし精神科医療との接点は限定的である。演者らは、精神科医療の課題である治療抵抗性や薬物の多剤併用、原因不明で持続する愁訴への対処などに対して、鍼灸師と精神科医との相互的な医療連携がひとつの解決策になり得ると考えている。精神科医療における東西両医学融合の取り組みにおいて、一部の漢方薬やマインドフルネス瞑想が活用されているが、鍼灸は新規開拓分野である。古来の医術を新たな視点で再発見する必要性がある。本シンポジウムでは、鍼灸師と精神科医が相互連携することの有用性を議論することを目的とする。患者のためになる有意義な医療連携のためには、鍼灸/鍼灸師が何をしているのか、何ができるのかを理解する必要があり、精神科領域での鍼灸の役割を明確にしなければならない。そのため、シンポジウムでは、第一に総論として鍼灸の効果とメカニズムに関する医学研究のエビデンスを紹介する。次に、精神科領域での鍼灸の生物学的メカニズムに焦点を絞り、鍼灸の抗ストレス作用に関する基礎研究を紹介する。その後、鍼灸師・精神科医それぞれの立場から精神科での鍼灸の臨床応用についてエビデンスに基づいた見解を述べる。さらに、心理士や精神保健福祉士の立場から見た鍼灸の意義や世界の鍼灸事情などを含めて議論を深め、精神科医療における新たな鍼灸師・精神科医の医療連携のかたち(APネットワーク)を提案したい。