第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム100
発達障害とNeurodiversity

2023年6月24日(土) 13:15 〜 15:15 C会場 (パシフィコ横浜ノース 1F G6)

司会:岩波 明(昭和大学医学部精神医学講座), 柏 淳(ハートクリニック横浜)
メインコーディネーター:岩波 明(昭和大学医学部精神医学講座)

 近年、発達障害、特に成人期の発達障害について、一般の人たちにおいても、医療関係者においても、強い関心がもたれるようになっている。かつて児童や思春期の疾患と考えられていた発達障害は、成人になっても症状が持続することが明らかになり、教育や行政、職場における対応が求められている。発達障害とは生まれながらの脳機能の偏りがみられる疾患の総称で、疾患ごとに様々な特性を示すが、発達障害の当事者に関しては通常の社会生活を送っている人が多く、疾患というよりも「特性」と考えるのが適当な例が大部分である。こうした中で成人期の発達障害においては、就労に関する問題が重要な位置を占めている。一般に発達障害は能力の偏りやアンバランスさを示す例が少なくない。高い知能指数を持っているにもかかわらず、不注意や集中力の障害によって不適応を繰り返しているケースや、対人的なコニュニケーションは不得手であっても特定の領域には優れた能力を示す例もみられる。このような発達障害の特性は、Neurodiversity(神経多様性)と呼ばれている。Neurodiversityとは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という2つの言葉が組み合わされて生まれた用語で、「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方である。本シンポジウムにおいては、さまざまな側面から発達障害におけるNeurodiversityについて検討を行いたい。
 成人期の発達障害の当事者の中には、就労の中で特に生きづらさを感じ、うつ病や不安障害を示したり、失敗を繰り返したりすることによって、ひきこもりなどに陥る例も存在している。こういった課題を解決していくには、医療的な側面だけでなく、就労の場となる産業界の理解や啓発が重要である。わが国においては障害者雇用の枠組みが利用可能であるが、当事者においては、通常の雇用枠に従事しているものも多い。一方で海外では、大手IT企業を中心に発達障害を積極的に雇用する取り組みが広まりつつあり、これらの海外企業では、発達障害者のための特別な雇用プログラムを設置し、ITエンジニアやセキュリティスペシャリストなどの高度な専門職として雇用しているのが特徴であり、このような仕組みにおいて、Neurodiversityを積極的に活用しているものと言えよう。このシンポジウムでは、Neurodiversityの概念について詳細に検討するとともに、精神医療の現場における発達障害とNeurodiversity、ギフテッドに関する最新研究、就労移行支援におけるNeurodiversityなどのテーマについて現状と今度の課題について議論をしていく予定である。Neurodiversityを共通概念とした、発達障害に対する就労支援のシステムの構築は社会的インパクトの高い課題であり、医学会と産業界、さらには行政と連携して積極的に取り組むべき課題と考えられる。