○内田 舞 (マサチューセッツ総合病院精神科)
Session information
シンポジウム
シンポジウム108
マイクロアグレッションの理解と克服~精神医療の向上と共生社会の実現のために
Sat. Jun 24, 2023 1:15 PM - 3:15 PM O会場 (パシフィコ横浜ノース 4F G414+G415)
司会:渡辺 雅子(新宿神経クリニック精神科), 内田 千代子(星槎大学大学院教育実践研究科)
メインコーディネーター:内田 千代子(星槎大学大学院教育実践研究科)
サブコーディネーター:加茂 登志子(若松町こころとひふのクリニックメンタルケア科PCIT研修センター)
昨年我々は、「コロナ禍での事象を通してわが国の母親の立場、女性の立場を考えるー日米比較から」というテーマのシンポジウムを行い、わが国の母親・女性の置かれた苦しい状況を議論した。その中で、あからさまな目に見える女性差別つまりマクロな差別とともに、差別と自覚されていないような、何気ない日常の中での見下しや貶しのような差別的言動ーマイクロアグレッションが精神衛生に及ぼす悪影響について考えるに至った。
近年アメリカでは、Black Lives MatterやMe Too Movementなどの運動の中でマイクロアグレッションという言葉が頻繁に聞かれるようになり、再び注目されているという。
1970年代に、米国の精神科医C. M. Pierceが、白人が無自覚に黒人に行う貶しが黒人の精神衛生に悪い影響をもたらすことを見出し、これをマイクロアグレッションと名付けた。その後、2000年代に、人種問題だけでなく、ジェンダーその他社会的に疎外されているマイノリティ集団にも適用された。2020年には、D. W. Sueの著書が「日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション--人種、ジェンダー、性的指向、:マイノリティーに向けられる無意識の差別」と邦訳されている。
マイクロアグレッションが人々の精神衛生をいかに悪化させるか、精神医療にどのような影響を及ぼすか、そして、共生社会をすすめるにあたってどれほどの障壁になっているかを考えたい。日本ではまだあまり広く浸透していない概念であるマイクロアグレッションとは何かを知ること、それを意識することの重要性を確認し、精神医療の現場における医療者の対応についても検討したい。医療者は患者が受けているマクロな差別だけでなく、マイクロアグレッションも理解する必要がある。
第119回日本精神神経学会のテーマである「今と未来を見つめる精神医学~目の前の患者さんに最善の医療を提供し、将来さらに良い医療を提供できるように努力する~」に、本シンポジウムは正に合致している。今と未来を見つめて、最善の医療さらに良い医療を提供するために、マイクロアグレッションの理解と克服を目指したい。
シンポジウムで予定されている演題は、米国精神科臨床医による「近年の米国におけるマイクロアグレッションの状況、および日本女性の立場をマイクロアグレッションに注目して考える」、社会学者による「SNS空間でのジェンダーに関わるマイクロアグレッションについて、フェミニズムの知見からの問題提起」、心理学者による「LGBT当事者として、心理学者としてマイクロアグレッションを考えるークリニカルバイアスの危険性」、精神科医による「日常臨床でのマイクロアグレッションへの気づきと対応」である。深い学びを得られる議論となることを確信する。
○田中 東子 (東京大学大学院情報学環)
○梅宮 れいか (福島学院大学大学院心理学研究科)
○内田 千代子1,2 (1.星槎大学大学院教育実践研究科, 2.東京都医学総合研究所)
○糸川 昌成 (東京都医学総合研究所病院等連携研究センター)
○大川 匡子 (公益財団法人神経研究所睡眠健康推進機構)