第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム17
神経発達症の感覚現象と実践的な支援

2023年6月22日(木) 13:15 〜 15:15 C会場 (パシフィコ横浜ノース 1F G6)

司会:小坂 浩隆(福井大学医学部精神医学), 松永 寿人(兵庫医科大学精神科精神科神経科講座)
メインコーディネーター:小坂 浩隆(福井大学医学部精神医学)
サブコーディネーター:中村 和彦(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座), 松永 寿人(兵庫医科大学精神科精神科神経科講座)

 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder, 以下ASDと表記する)の歴史では、当初から感覚の過敏さや運動の不器用さが報告されていたが(Kanner L. 1943)、1980年代以降、ASDは主に、対人的相互反応、コミュニケーション、反復的常同的行動という観点から捉えられるようになっていた。DSM-5では初めて、感覚刺激に対する過剰反応や低反応、感覚に対する異常な興味といった感覚の問題が、診断基準として明確に記載され、ASDの診断におけるその重要性が再認識された。感覚に関する問題行動が定型発達者と比べて多く認めること、感覚の問題はASDの重症度と相関関係にあること、さらに全ての信頼性のある自叙伝に感覚についての記述があることなどが知られており、ASD者の感覚情報処理の問題に関する注目は急速に高まってきている。これらの感覚の特徴は、しばしば症状を誘発し、重大な苦痛や機能障害を引き起こすことが知られている。感覚特性は適応行動(Dellapiazza et al. 2018)、日常生活動作(Isamel et al. 2016)、食事(Cermak et al. 2010)、睡眠(Mazurek and Petroski 2015)、限局的・反復的行動(Chen et al. 2009)、社会機能(Gold et al. 2015)、不安症状(Green et al. 2012)との強い関係が示唆されている。感覚情報処理障害と呼ばれる疾患群は、小児期の不安や強迫症(OCD)と有意に重なる可能性があり、感覚の異常と恐怖に基づく精神病理との関連性を裏付けている。OCDをはじめとした不安障害でも感覚症状はしばしば存在することが知られている(Houghton et al, 2020)。また不安はSPDをもたらし、SPDは不安症状をもたらすことが知られている(Green et al, 2020)。臨床場面において感覚の問題を切り口とすることでその症状の機序についての説明がクリアになり、支援の糸口となることも多い。感覚の症状が軽減すれば、生活上の苦痛が改善できるという期待もある。
 一方で感覚の問題が起こるメカニズムや治療方法については解明されておらず、今日まで医師の間でASDの感覚の問題はまだ十分に理解が浸透されているとは言えない現実がある。そもそも診療現場においてASD者やOCD者の感覚特性把握は容易でなく、支援も容易ではない現状がある。本シンポジウムでは、ASD及びOCDの感覚の問題を多角的な角度から研究する臨床家が、ASDの感覚・運動の問題についての本質に迫る。さらにそれぞれの現場における支援について提言する。本シンポジウムは以下の5演題で構成される。「聴覚科学からみた聴覚過敏」「女性のASD児の感覚特性に基づいた支援」「ASDの感覚の問題と社会性の関連」「tic-related OCDにおける感覚現象」「産業医学における感覚特性支援」