第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム20
これからの精神医学に求められるものとは? ポジティブ精神医学の活用

2023年6月22日(木) 13:15 〜 15:15 I会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G318+G319)

司会:佐久間 啓(社会医療法人あさかホスピタル), 須賀 英道(龍谷大学短期大学部)
メインコーディネーター:須賀 英道(龍谷大学短期大学部)
サブコーディネーター:大野 裕(大野研究所)

本学会のテーマ「今と未来を見つめる精神医学」は今後の精神医学の展望を考える上で非常に重要な視点である。現代社会はコロナ問題によって、医療に限らず、経済、産業、文化など著しく大きい社会問題となり、その影響はマクロな産業・経済状況に限らず個人生活や環境問題にも至っている。こうした状況において、今さまざまな分野で見直されているのは、ネガティブ要因の原因解明と解決といった1つの方向性に限定した視点ではなく、ネガティブ要因の寛容、受容性やポジティブ指向性といった視点に目を向ける多様性である。ここで着眼されるのが、ポジティブ精神医学の応用である。環境リソースの積極活用、自らの持つ強みの気づきと成長などポジティブ手法によって元来のレジリアンスを強化することも期待される。ポジティブ精神医学とは、米国のAPAでは2012年にJesteらによって提唱された精神医学である。日本でもポジティブサイコロジー医学会のメンバーで翻訳本が出版された。ポジティブ精神医学では、従来の伝統的精神医学の求めた精神病理や治療目標であった症状改善を相補する立場から、ポジティブ特性の強化によってウェルビーイングの増大、リカバリー、成功的加齢、ポストトラウマチック成長などが目標とされ、その有効性も実証されてきている。この方向性はレジリエンス強化など、予防を主眼とした精神医学の発展にもつながることが期待される。さらに、ポジティブ精神医学では、脳基盤研究による生物学的エビデンスの追究もなされ、将来の可能性・指向性とBA10領野の活動性の関連、レジリアンスに関連した自己評価性とDMPFC、右脳の内側楔前部と幸福感、感謝気分とウェルビーイング、オキシトシンと幸福感など非常に多くの結果が最近報告されている。こうしたポジティブ精神医学は、セリグマンの提唱したポジティブサイコロジーにもさかのぼる。セリグマンは、5つのポジティブ特性、すなわち、ポジティブ感情、積極関与(フロー)、関係性(relationship)、生きる意味付け、目標達成感を主としたモデル(PERMA)をベースとしている。既にポジティブサイコロジーではこれまで数多くの実証研究結果が報告され、有効な手法については具体的に臨床、教育など様々な分野で用いられている。今回のシンポジウムでは、次の4分野における最新研究の報告を行うとともに、今後の精神医学の発展性について議論を深めたい。1)病気を治すだけでなくウェルビーイングを高めるアプローチ(ウェルビーイング・イルネス・デュアルモデルについて) 2)重篤な精神疾患を持つ入院患者のポジティブな面にも着目したアプローチ(リカバリーを目指す認知行動療法) 3)スポーツがこころの健康に与えるポジティブな影響(スポーツ精神医学) 4)産業領域でのウェルビーイングや健康経営