○塩入 俊樹 (岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野)
セッション情報
シンポジウム
シンポジウム28
現代のcommon diseaseとしての不安障害~その正常と病的の境界とは
2023年6月22日(木) 15:30 〜 17:30 G会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G314+G315)
司会:松永 寿人(兵庫医科大学精神科精神科神経科講座), 塩入 俊樹(岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野)
メインコーディネーター:松永 寿人(兵庫医科大学精神科精神科神経科講座)
今世紀は「心の時代」とも呼ばれ、心の健康についての関心が高まっている。この中で、不安症など不安が関わる疾患について、本邦の一般人口中での生涯有病率は約9%と見積もられている。すなわち約1000万人が該当することとなり、現代におけるcommon diseaseと捉えうるであろう。その一方社会は益々多様化・複雑化し、不安やストレス要因も多種多様で個別性が著しい。例えば、今回のCOVID-19感染症のパンデミック下でも、感染への恐れのみならず、就労や対人関係様式、生活環境などの激変、雇用や収入の不安定化、さらに感染者あるいは医療従事者に向けられた差別や偏見など、現在社会が抱える脆弱性や病理が多角的に露わとなる中で、多くの人々において、個々の事情によって不安や抑うつ傾向が高まり、自殺者も増すなど社会的問題化している。特に就労者が抱える今日的不安には、在宅勤務やテレワークといった働き方、あるいは就労環境の大きな転換などに伴うストレス要因が大いに関わっている。しかしそもそも不安は、誰にとっても生理的に生じうる情動である。すなわち「不安は警戒を促す信号」といえるもので、その大部分は正常で適応的な反応である。その一方、不安の起こり方や発現様式には個人差が大きい。このため、正常不安と病的不安との境界が重要となる。この点、病的不安を裏付ける神経科学的機序の理解と応用は、病的不安の生物学的妥当性と共に、適切な治療選択あるいは新奇治療開発を進める上で、極めて重要かつ不可欠なものとなる。このような不安の内容や程度の個人差には、個々の心身の健康状態に加え、生来の不安脆弱性やトラウマなど今までの体験に基づく不安の条件づけ、対処や認知のパターンを含むパーソナリテイ、サポートなど様々な要因が関わっている。例えば妊産婦においては、感受性や不安の高まりは必然であるが、これがサポートの低下など様々な理由により病的水準に達した場合、長期にわたって児の心身に影響を及ぼしうるため看破できない問題となりうる。さらに先行ないし併存する身体、あるいは精神疾患の存在下で生じる不安の問題は、様々な実臨床の場面においてしばしば遭遇するもので、十分な注意や対応を要するものであろう。このように本シンポジウムでは、我々が直面している社会的状況において表在化した不安を、現代におけるcommon diseaseという観点から焦点を当て、「治療の対象となる不安とはどのようなものか」をまずは考察したい。そのような現代的不安の在り方、そして臨床的意義、その対応に関する整理を各不安障害のエキスパートに試みていただき、精神科臨床のみならず、様々な現場で役立つものを目指したい。
○朝倉 聡 (北海道大学保健センター・大学院医学研究院精神医学教室)
○大坪 天平 (東京女子医科大学附属足立医療センター精神科)
○金 吉晴 (国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
○松永 寿人 (兵庫医科大学精神科精神科神経科講座)