第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム30
心拍変動自律神経バイオマーカー:工学と精神医学のクロストーク

2023年6月22日(木) 15:30 〜 17:30 I会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G318+G319)

司会:榛葉 俊一(静岡済生会総合病院精神科), 松井 岳巳(東京都立大学システムデザイン研究科)
メインコーディネーター:榛葉 俊一(静岡済生会総合病院精神科)

 精神疾患の診断・治療におけるバイオマーカーは、遺伝学、分子生物学、精神生理学など多くの分野で研究されている。本シンポジウムでは、精神生理学分野における自律神経バイオマーカーの一つである心拍変動指標を紹介する。
 心拍変動は日常臨床で利用できる簡便な指標であるが、工学的な解析と精神医学的な解析のCrosstalkの対象であり、新たな観点からの精神疾患の理解を可能にする。交感神経・副交感神経のみならず、呼吸関連調節・血圧関連調節、速い調節・遅い調節、安静・活動、睡眠・覚醒などの多面的な切り口で結果を評価できる。さらに本分野においては、ウエアラブルセンサー、カメラ画像解析、信号処理システムなど工学的開発がめざましい。
 本シンポジウムでは、システム開発から臨床応用にわたり研究を進めているシンポジストが、工学と精神医学の両面から、精神疾患における心拍変動指標の利用に関する知見を解説する。以下の5つの発表を企画した。
1. 生体リズム・ゆらぎと精神疾患:心拍変動、皮膚コンダクタンス、脳波を用いた解析(榛葉俊一、静岡済生会総合病院精神科部長):生体の機能は多様な間隔で変動するリズムを有している。本発表では、心拍変動を含めた生体リズム・ゆらぎの分析が、うつ病、不安障害、認知症、せん妄などの精神疾患における病態評価に有用であることを概説する。
2. 生体リズム・ゆらぎの複雑性と臨床的意義(清野健、大阪大学基礎工学研究科教授):心拍変動などの生体信号には、動的で複雑な特性が見られる。そのような生体信号の分析方法や特徴を紹介し、臨床的意義について解説する。
3. 胸部ウエアラブルモニターを用いたうつ病相における心拍変動と活動量の同時計測(功刀浩、帝京大学精神神経科学講座教授):胸部ウエアラブルモニターを用いてうつ病相の患者と健常者の活動量と心拍変動を連続3日間測定した結果を報告する。患者群は活動量が少ない一方、交感神経活動が優位であること、そして睡眠時間帯の交感神経活動の亢進は睡眠中の活動亢進や日中の活動量低下と関連することが示された。
4. レビー小体病における自律神経障害に対する心拍変動の応用(角幸頼、滋賀医科大学精神医学講座助教):パーキンソン病やレビー小体型認知症を含むレビー小体病では、高率に自律神経障害を合併し生活の質を障害する。これまで、レビー小体病の初期と考えられるレム睡眠行動障害患者において、臥位における心拍変動の減弱が起立性血圧低下と関連することを報告してきた。心拍変動指標を用いることで自律神経障害を定量的に評価し、転倒予防に役立てられる可能性がある。
5. 精神負荷に対する自律神経応答を用いた統合失調症・うつ病スクリーニング法の検討(松井岳巳、東京都立大システムデザイン学部教授):潜在患者に精神科受診を促すために自律神経応答を用いた統合失調症とうつ病のスクリーニング法を検討した。睡眠およびヨーガを精神負荷とした、ワイヤレス心電計と腕時型デバイスによる心拍変動解析を紹介する。