○丹治 和世 (小石川東京病院精神科)
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シンポジウム
シンポジウム38
自閉スペクトラム症の特性とは何か~研究の視点を診療につなげる~
Fri. Jun 23, 2023 8:30 AM - 10:30 AM C会場 (パシフィコ横浜ノース 1F G6)
司会:太田 晴久(昭和大学発達障害医療研究所), 中村 元昭(昭和大学発達障害医療研究所)
メインコーディネーター:太田 晴久(昭和大学発達障害医療研究所)
自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:以下ASD)に対する診療は、裾野の広がりをみせている。成人を主な対象とするクリニックや病院でも、日常診療に際して、ASD への理解は必須のものとなっている。一方で、ASDの診断の妥当性について、過小診断のみならず過剰診断の問題が提起されている。グレーゾーンという言葉のもとで、ASDとは異なる病態を、ASDとして判断してしまう危険性についても留意する必要がある。この状況を引き起こしている一因として、代表的なASD特性である対人コミュニケーションの問題が、様々な原因で起こり得ることがあるだろう。他の精神疾患、例えばパーソナリティ障害に由来する対人トラブルと、ASD特性に由来する対人コミュニケーションの問題は、本来は質的に異なる。「ASDの特性」とは何か、対人コミュニケーションやこだわりというキーワードだけでなく、その背景にあるものを、我々はもっと深く理解しなくてはならない。ASDの行動様式を引き起こす要因について、様々な角度から研究が進んでいる。現状において、ASDの客観的な診断指標として、臨床現場で一律に使用できる研究成果は得られていない。そのため、研究と臨床との間に心理的な乖離が生じ、研究的な取り組みが現実の臨床とは無縁なものとされやすい。しかしながら、それぞれの分野での研究で得られている成果や考え方は、当事者を診療する上でのヒントとなり得る。一方、臨床医による気づきや精緻な観察も、適切な研究を実施するための重要な要素となっている。臨床と研究が双方向性に協働しながら、ASDへの理解を深めていくことが求められている。本シンポジウムでは、各研究分野において、ASDに関して得られている知見について概説すると共に、各研究分野の視点でみた臨床現場で役立つ考え方やヒントをそれぞれ提示する。丹治からは、個々のASD症例においてみられる知覚や認知機能の特徴について、神経心理学的に分析することで、症候の理解を図る試みを紹介する。藤野からは、道徳観・共感性・不確実性・協調性などの要素が関わる意思決定を定量化することで、ASDの行動様式を検証する神経/行動経済学の取り組みを紹介する。幕内からは、自閉症者は共感を表明する文末助詞「ね」を使わないという綿巻(1997)の症例報告をヒントに、コーパス分析・産出実験・fMRI実験で検討した結果を報告する。太田からは、ADHDとの異同に着目した脳画像研究およびデイケアプログラムについて紹介する。池澤からは、ASDと近接する概念である「ギフテッド」の特徴を持つ人々の実態と支援のあり方に関して紹介する。「ASDの特性」について、これらの研究の視点から一歩踏み込んで検討し、聴講者を含めて相互に議論することで、ASDをより深く理解する機会としたい。そして、混乱が生じやすいASDへの診療が、研究と臨床の継続的な協働のもとで、確かな方向に収斂していくことを願っている。
○藤野 純也1,2 (1.東京医科歯科大学精神科, 2.昭和大学附属烏山病院)
○幕内 充 (国立障害者リハビリテーションセンター研究所高次脳機能障害研究室)
○太田 晴久1, 中村 元昭1, 沖村 宰1, 板橋 貴史1, 橋本 龍一郎2, 青木 隆太1, 青木 悠太3, 加藤 進昌4 (1.昭和大学発達障害医療研究所, 2.東京都立大学, 3.あおきクリニック, 4.小石川東京病院)
○池澤 聰 (東京大学大学院総合文化研究科ギフテッド創成寄付講座)