○伊賀 淳一 (愛媛大学医学部附属病院)
セッション情報
シンポジウム
シンポジウム70
高齢者のうつ病治療、次の一手
2023年6月23日(金) 15:30 〜 17:30 F会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G312+G313)
司会:上田 諭(東京さつきホスピタル精神科), 古田 光(東京都健康長寿医療センター精神科)
メインコーディネーター:上田 諭(東京さつきホスピタル精神科)
高齢者うつ病は治療が停滞している状況が多い。初期の薬物療法が奏効せず、または二番手、三番手の薬剤も十分有効とならずに、寛解しないまま「放置」されてしまう。あるいは、薬物療法以前に、身体症状や不安症状が前景に出るようなうつ病として典型的とはいえない症状に対して、「加齢が要因」「生活環境の影響」などとされて、十分な薬物療法が行われないまま経過している例も少なくない。
また、認知症への啓発が進んだ今日多くみられるのが、認知症症状・病理があるとして、うつ病治療が手控えられる現象である。心気・焦燥症状とともに向精神薬への過敏性があるからとレビー小体型認知症が疑われ、または軽度認知機能低下と画像変化からアルツハイマー型認知症の兆候があるとして、抑うつ症状に対する治療が十分行われていない例によく出会う。しかし、確かな臨床症状や検査所見がないまま、根治療法のない認知症の診断に走ることが、患者に利益を生むとは思われない。心気・焦燥は高齢者うつ病の典型的症状の一つであり、また、うつ病が仮性認知症を呈し、ある程度の画像変化を生じることは初歩的な臨床事項である。うつ症状で苦悩する患者を前に、まずは寛解を目指した十分なうつ病治療を行うべきであると思われる。
高齢者うつ病の治療が停滞したとき、次に施すべき治療手法を常に念頭におくことは臨床において欠かせないことである。
第一に、高齢者のうつ病治療ガイドライン(日本うつ病学会)はエビデンスを元にどのような方法を提示しているのかを押さえたい。第二に、ガイドラインに沿って治療が進展しない場合、ガイドラインで推奨されない方法でも有効なものがある。三環系抗うつ薬や低用量sulpirideが著効する場合は少なくない。第三に、ガイドラインで示されていない精神病性うつ病に対して、どういう治療戦略があるのか。精神病性うつ病の分類によって治療法が変わる点も含め、具体的な薬物療法と電気けいれん療法(ECT)を考えたい。最後に、高齢者に対するECTのより効果的かつ安全な方法として強く推奨される右片側性電極配置での刺激手法と有用性を論じる。いまだ両側性電極配置が圧倒的多数を占める現状は、高齢者のうつ病治療にとって常に最適とは言えないのである。
○古田 光 (東京都健康長寿医療センター)
○上田 諭 (東京さつきホスピタル精神科)
○古野 毅彦 (独立行政法人国立病院機構東京医療センター精神科)
○安田 和幸 (山梨大学医学部精神神経医学)