第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム72
アディクション診療におけるグリーフケア

2023年6月23日(金) 15:30 〜 17:30 H会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G316+G317)

司会:佐久間 寛之(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター精神科), 長 徹二(一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさん臨床教育センター)
メインコーディネーター:長 徹二(一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさん臨床教育センター)
サブコーディネーター:佐久間 寛之(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター精神科), 入來 晃久(大阪精神医療センター)

 「自死が多い病気だから仕方ないって言われたのが、まったく慰めにならない慰めでした」これはアディクションを抱える人を支援している最中に、その人が自死にて人生を終えた際に、先輩からかけられた声掛けにより、さらにつらい思いをした、ある支援者の体験談である。「そういう運命だった」、「○○が悪いんだよ」といったようなセリフによる、似たような体験を耳にすることも少なくない。アルコール、薬物、ギャンブルといったアディクションは自死のリスクが高いことが知られている。自身の感情や思考を素直に表現できないことも多く、うつなど他の精神疾患の合併率が高いことに加え、アディクションがもたらす社会的障害やスティグマは本人を心理的に孤立させやすい。事故や身体合併症など、どこまでアディクションに関連しているか不明な事例も加えれば、統計的に判明しているよりもさらに多くの自死が潜んでいる可能性もある。実際にアディクション診療に関わっていると、患者の自死をしばしば経験する。増悪期のみならず、回復期や安定期においても発生する場合があり、予測不能性が高い。そのため、困難な時期から回復過程に寄り添っていた支援者は心理的なダメージを受け、「我々の目線でしか患者さんのことを理解できていなかった」という、徒労感や自責感を抱きがちである。精神疾患全体に自死のリスクは高いが、アディクションの場合には固有の疲弊感がある。特に支援のあり方についてチーム内で対立が起きていた場合などはなおさらである。
 さらには、「家族への説明」、「訴訟リスクの検討と対策」、「管理者への説明方法」など、直近すぐに対応しなければならないことも多く、こうした業務に没頭しているうちに、心が傷ついた自覚もないまま、自分たちをケアすることが後回しになってしまいかねない。アディクションを抱える人の自死が支援者にもたらす心理的ダメージ、そして、それを受容するためのグリーフケアについては重要な問題であるにもかかわらず、これまで議論に上がることは少なかった。我々はこうした状況をどうやって乗り越えればよいのだろうか?公式・非公式を問わず、様々な取り組みや関わりにより、支援者やご家族、共に回復を目指していた周囲の仲間たちが喪失体験を乗り越え、また新たな誰かを支援・治療していこうと思える仕組みについて、経験豊富なものから若手参加者まで幅広い議論をする機会としたい。今回はシンポジストとして、様々な領域でアディクションにかかわるメンバーとした。精神科病院で勤務する立場から福田貴博氏、総合病院で勤務する立場から射場亜希子氏、診療所で勤務する立場から眞城耕志氏、病棟に勤務する看護師の立場から阿部かおり氏、大学教授まで務めた経験豊富な立場から齋藤利和氏が、具体的な経験の共有や取り組み・実践について報告する。指定発言として、臨床経験豊富な成瀬暢也氏に協力を仰ぎながら、今後の解決策をフロアの参加者と共有、模索していきたい。