第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム77
医薬品・医療機器のエコシステムと精神科医-本邦のレギュラトリーサイエンスに対する精神科医の役割

2023年6月23日(金) 15:30 〜 17:30 Q会場 (パシフィコ横浜ノース 4F G418+G419)

司会:横井 優磨(国立精神・神経医療研究センター病院臨床研究・教育研修部門教育研修部)
メインコーディネーター:横井 優磨(国立精神・神経医療研究センター病院臨床研究・教育研修部門教育研修部)

 精神科で用いられる新薬や新医療機器(以下、「新薬等」)について、近年ドラッグラグやデバイスラグについて語られることが少なくなっているが、実際に精神科の全ての領域で解消したわけではない。また、精神科領域では、以前から指摘されている治験の失敗割合の高さを改善するために臨床的、デザイン的に工夫された治験が増えているものの、大きく改善しているわけではない。日本での精神科領域の新薬等の開発を促進し、治験により有効性が認められた新薬等を安全性上のリスクや懸念点を最小化した上で速やかに臨床現場に届けるためには、開発研究者、開発企業と規制当局の精神科臨床医等との深い相互理解が重要である。特に、精神科領域では安全性や適正使用の観点から特別なモニタリングや流通管理、保険適用条件が課されている薬剤及び医療機器が存在しており、新薬等の特性、特徴に応じて、精神科医には、製造販売後においても、適切な医療環境の構築のための領域専門的な知識・経験が継続的に求められている。また、医療機器の分野においては、平成26年の法改正でプログラム製品が医療機器として規制の対象となったため、昨今精神科領域の診断や治療を目的としたプログラム医療機器の開発が盛んであり、新たな観点の専門的な知識も求められている。
 しかしながら、米国において新薬等の承認審査等を担っている規制当局が食品医薬品局(FDA)と認識していても、そもそも日本で新薬等の承認審査等を担っている規制当局の名前を認識している精神科医は少ない。そして、日本で新薬等の承認審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)において精神科領域で日々出現する多くの課題を解決するために求められる専門性について、精神科医の間で語られる機会は更に少ない。
 本シンポジウムでは、今後ますます必要性が高まる規制当局とカウンターパート(患者・臨床医・研究者・学会・企業等)との連携・対話の1つとして、PMDAの審査員及びPMDAでの臨床医学担当を経験した精神科医に、それぞれの立場から、精神科領域の新薬等のエコシステムについて議論する場を提供できればと考えている。また、行政職でありながら広く深い臨床能力が必要とされる臨床医学担当という仕事について、その前後のキャリアパス等も含めて知ってもらうことで、精神科医に規制当局(PMDA)を身近なものとして感じてもらえる機会になると考える。そしてなにより、本シンポジウムを通じより多くの精神科医が、規制当局やエコシステム全体への知識や興味を深めてもらえれば、精神科領域の医療が科学的にも倫理的にも発展し、有用性の高い新薬等がより一層速やかに医療現場に届けられるとともに、患者中心のより良い医療環境を作ることにもつながるのではないかと期待している。