第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム79
統合失調症における自閉性と自閉スペクトラム症-病態における同異の研究を臨床に活かす知見-

2023年6月24日(土) 08:30 〜 10:30 B会場 (パシフィコ横浜ノース 1F G5)

司会:金原 信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター), 木村 大(学而会木村病院精神科)
メインコーディネーター:金原 信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
サブコーディネーター:木村 大(学而会木村病院精神科)

 Bleuler E.はDementia Parecoxの基本症状の一つに「自閉」を置いた(1908)。Bender L.は自閉症を統合失調症の若年発症型と位置付け(1947)、以来DSM-Ⅱまで両疾患は同じ診断カテゴリで扱われた。DSM-Ⅲが登場以降、両者は分離されて今日に至る。現在の主要な診断基準を用いた自閉スペクトラム症と統合失調症には明確な違いがあっても、臨床上では鑑別が難しくなることは少なくなく今日でも両疾患の相互関係を理解するには依然大きな課題が残されている。臨床の場面では自閉症スペクトラムと精神病症状、統合失調症と自閉性の併存の有無が問題となる。近年のメタ解析では自閉症スペクトラム患者の約10%に精神病症状が出現し、また統合失調症患者で自閉傾向のある者は10-60%に渡るとされる。両者の鑑別や見立てには様々な情報収集や慎重な縦断的観察が必要である。我が国では2009年にクロザピンが登場して以降、治療抵抗性統合失調症患者の治療は大きく変化しつつある。多くの治療抵抗性化因子の中でも若年発病や病前社会機能低下は常に代表的な因子であり、発育上の要因の関与が推定されている。統合失調症診療において、発育面や自閉傾向の評価の重要性は増しており、統合失調症患者の自閉性、あるいは自閉症スペクトラムの併存の問題を正面から検討することは、統合失調症患者の臨床像の見立てや研究の方向性において一つの有意義なヒントを提供すると考える。
 本シンポジウムでは統合失調症の自閉傾向に焦点を当て、診断における注意点や課題を議論すると共に、バイオマーカーや認知機能など生物学的研究の現在まで知見について整理したい。具体的には自閉症スペクトラムから見た統合失調症の移行や鑑別に関する知見について、両者の神経認知・社会認知機能障害に関する知見について、さらには両疾患のバイオマーカー探索の現状について発表を行う。本シンポジウムを通して、統合失調症と自閉症の類似性および統合失調症に併存する自閉傾向における生物学特性と臨床学的特性の理解を深め、より望ましい診断および治療や社会活動への支援方法についての議論が活性化されることが期待される。