第119回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム85
世に出ていく力動精神医学-今日的意義と課題

2023年6月24日(土) 08:30 〜 10:30 I会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G318+G319)

司会:近藤 直司(大正大学心理社会学部臨床心理学科)
メインコーディネーター:池田 暁史(大正大学心理社会学部臨床心理学科)
サブコーディネーター:林 公輔(学習院大学文学部心理学科), 木﨑 英介(医療法人財団厚生協会大泉病院)

 精神科医療は病院の外、たとえば学校や産業領域など, さまざまな社会場面に展開してきた。それは精神科医療が単に疾患・障害の治療にとどまるものではなく、人と人との関係性に目をむけ、それを理解しようとする営みだからではないだろうか。言いかえれば, 対人関係が生まれるところには精神科医療の寄与する余地があるといえるだろう。
 同様に精神分析も、構造化された面接室の外へと、力動精神医学という形で応用され、発展してきた歴史がある。力動精神医学とは、精神分析の祖であるFreud, S(1856~1939)に端を発する力動的視点(dynamic aspect)によって個人の精神現象を理解し、その理解を基盤として実践される精神医学を指す(岩崎, 2002)。力動的な視点では、こころを相反する欲求や情動、規範によって突き動かされる動的なものとして見る。無意識内に存在する生活史等に由来する対人イメージや対人交流のありようなどが, 現在における自己決定や対人関係に影響を与えると考え、そのような視点から個人の情動や思考、そして行為を理解して意味づけようとするのである。
 こうした試みは個人を理解するだけにとどまらず、人間関係や集団力動を理解する際にも有用であるため、地域社会で実践されている精神科医療においても、力動精神医学は実践・応用されている。しかしそのことが注目されることは残念ながら少ないと言わざるを得ない。また、本学会の専門医制度においても力動的精神療法の習得が到達目標として含まれているが、その意味を理解し、実践している医師は必ずしも多くないのが実情ではないだろうか。
 そこで本シンポジウムでは、力動精神医学についての概説を行った上で、「面接室の外」での実践とその有用性について焦点を当てることを試みたい。木﨑英介は力動精神医学の概説と精神科アウトリーチにおける応用について考察を行う。嶋田博之は組織において力動精神医学がどのように応用できるのか、その有用性について発表を行う。白波瀬丈一郎は病院や健康を「デザイン」するという実践を総合病院で行っているが、力動的な視点がどのように活かされているのかについて発表する。林公輔は臨床心理士・公認心理師を養成する大学院での教育に集団精神療法を取り入れているが、その教育的な意義について力動的な視点から考察を行う。これらの発表を受けて、池田暁史は精神科医・精神分析家としての立場から指定討論を行う。参加者との質疑応答も含んで、表立って語られることの少ない力動精神医学の魅力について、理解を深めたいと考えている。