○髙野 覚 (医療法人社団明雄会本庄児玉病院精神科)
セッション情報
シンポジウム
シンポジウム94
「進化精神医学」の現在と展開
2023年6月24日(土) 10:45 〜 12:45 H会場 (パシフィコ横浜ノース 3F G316+G317)
司会:神庭 重信(社会医療法人栗山会飯田病院精神科), 加藤 敏(小山富士見台病院精神科)
メインコーディネーター:髙野 覚(医療法人社団明雄会本庄児玉病院精神科)
サブコーディネーター:加藤 敏(小山富士見台病院精神科)
人間存在が「言語―遺伝子」複合体である以上、精神医学は、人文科学を含む多様な学問領域との学際性を特徴とする。進化人類学との学際的関係のなかで展開する「進化精神医学」は、様々な精神障害を含む多くの遺伝子解析の知見が出されている現在、その意義は一層大きくなっている。
身体医学では、咳や発熱は不快だが、大部分は自己防衛のために有用なシステムだという適応論的アプローチを取る。それと類比的に「進化精神医学」は、不安やうつなどを、危険な状況を回避して生き抜くための適応行動という自己防衛の側面に注目する(Nesse&Williams, 1996)。
現代の社会環境において適応不全をきたし事例化する精神障害を、約20万年前にアフリカの狩猟採取民として誕生したヒトの進化的適応環境(EEA)と現代社会環境とのギャップに源を求める視点は魅力的である。かつての進化的適応環境における塩分・糖分やカロリーが少ない食料環境に適応していたが故の現代の高血圧や糖尿病と類似の発生機構から、恐怖症、薬物依存、摂食障害などを検討することができる。例えば、ヘビやクモへの恐怖は遺伝的なものであることが示されたが(Gredebck et al., 2017)、現代のドイツのような毒ヘビの存在しない環境下では非適応的な恐怖症となる。
多くの精神障害にみられる遺伝因も大部分はポリジェニックかつエピジェネティックなものだが、エピジェネティックなものには環境因が強く作用するため、進化的適応環境と現代社会環境の間のギャップを考察することには意義がある。そして、遺伝因が一定程度ある場合、当該の遺伝子が淘汰されずに存続する理由を考慮すべきであり、その視点は統合失調症、双極性障害、一部の発達障害などの考察に示唆を与えるだろう。
本シンポジウムでは、まず医学部編入前に東京大学理学部生物学科人類学課程にて学んだ髙野覚(本庄児玉病院)が、進化人類学の方法論との関係から「進化精神医学の概要と現在」について話し、次いで、やはり医学部編入前に東京大学理学部生物学科人類学課程で学び、認知症研究の第一人者である池田学(大阪大学精神医学教授)が「個体発生と系統発生の視点から発達と老化・認知症に通底するもの」について論じ、そして加藤敏(小山富士見台病院)が、精神病理学の知見をふまえ「進化精神医学の見地から現在の統合失調症に光を当てる」試みをし、最後に、「進化精神医学ーダーウィンとユングが解き明かす心の病」の訳書もある豊嶋良一(埼玉医科大学名誉教授)が「進化学的視点はココロのみかた・精神科臨床をどう変えるか」にて臨床への寄与を考察する。その後、座長を務める神庭重信(九州大学名誉教授)も指定討論の形で加わり「進化精神医学は臨床をどう変えるか?」の視点を含めた総合討論を行う予定である。進化精神医学による精神医学への深い洞察と精神科臨床へのパラダイムシフトが示されることが期待される。
○池田 学 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
○加藤 敏 (医療法人心救会小山富士見台病院)
○豊嶋 良一1,2 (1.医療法人静和会中山病院精神科, 2.埼玉医科大学名誉教授(精神医学))