村松 太郎 (慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
セッション情報
委員会企画シンポジウム
委員会企画シンポジウム13
精神鑑定を学ぶ:精神障害の犯行への影響のしかた(機序)をどのように説明するか?
2024年6月21日(金) 08:30 〜 10:30 J会場 (札幌コンベンションセンター 2F 201+202会議室)
司会:太田 順一郎(岡山市こころの健康センター),澤田 健(高知医療センター)
メインコーディネーター:村松 太郎(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
サブコーディネーター:高信 径介(北海道大学病院附属司法精神医療センター)
委員会:司法精神医学研修委員会
オンデマンド配信対象外
刑事精神鑑定を行う精神科医に求められる仕事は、対象者の①精神障害を診断し、その精神障害の犯行に与えた②影響を述べることである。それを受けて司法(裁判官・検察官)が③責任能力を判断することになる。このとき、①は専ら精神医学の領域にあり、③は専ら法の領域にあるが、②は精神医学と法の境界領域にあり、鑑定医がどこまで、どの程度、どのように述べるべきかについてはかねてから議論があるところである。平成21 年の裁判員裁判制度導入の前後からは、鑑定医の責務は「機序」の説明までであるとするのが司法側の優勢な見解で、鑑定嘱託書には鑑定を求める事項として「精神障害の犯行への影響のしかた(機序)」と記されることが多くなっている。しかしながら機序の適切な説明方法は、それぞれの精神障害によってかなり異なっている。説明を純粋に精神医学的なものにとどめれば、司法の行う責任能力判断にはほとんど寄与できない。逆に説明しすぎると司法が判断すべき領域を侵犯することにもなりかねない。精神鑑定は、対象者の診断と、犯行という行為について精神障害との関係を述べるという範囲においては精神医学そのものであり、臨床の技術がほとんどそのまま適用できる作業であるが、司法との接点で、かつ、精神鑑定で最も重要な点である「機序」の説明については、司法精神医学の専門的な知識と技術が強く求められることになる。そしてそれは遡及的に、臨床精神医学を別の角度から見直すことにも繋がりうる。本シンポジウムでは、最初に「機序」の解明が強調される最近の刑事精神鑑定の動向について総論的な解説を行う。そのうえで、「機序」の説明の困難な、統合失調症の緊張病状態、慢性期の統合失調症、境界性パーソナリティ障害という3 つの刑事精神鑑定事例を提示し、刑事精神鑑定における「機序」説明の可能性と限界、さらには臨床精神医学への貢献を明らかにすることとしたい。
五十嵐 禎人 (千葉大学社会精神保健教育研究センター法システム研究部門)
高信 径介 (北海道大学病院附属司法精神医療センター)
永田 貴子 (肥前精神医療センター)