第120回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

一般シンポジウム

一般シンポジウム41
「心の病が治る」とはどのようなことか?

2024年6月21日(金) 08:30 〜 10:30 F会場 (札幌コンベンションセンター 1F 107会議室)

司会:村井 俊哉(京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学))
メインコーディネーター:榊原 英輔(東京大学医学部附属病院精神神経科)

精神医学もその応用である精神科医療も、ともに「心の病を治す」ということを主たる目的とした学問であり実践である。とはいえ、「心の病を治す」という概念は必ずしも明確なものではなく、その背景には、「心の病」さらにはその対概念としての「心の健康」とは何か、という問いがある。こうした問いは、生物・心理・社会的存在としての私たち人間のあり様と密接に関わっている。この点こそが、こうした問いに少しでも真摯に向き合おうとすると、広い意味での哲学と関わらざるを得なくなる所以と言える。その一方でこうした問いは、精神科医療の目標を明確にすることを求めているという点で、医療実践においても無視することのできない重要な問いである。すなわち、「心の病を治す」という概念を少しでも明確にすることは、真に役立つ精神医学および精神科医療を実現するために必要不可欠な営みであると言える。本シンポジウムでは、精神医学の哲学の研究に携わる4 人の研究者が、「心の病を治す」という概念についてそれぞれの立場から考察する。植野は心の病の治癒を考えるための予備的考察として、医療において行われている治療の目標と、健康問題の永久的な解消という意味での治癒との相違について検討する。榊原は、手術が一旦体を傷つけるように、精神医学的な心の病の治療には心を傷つける過程が含まれているが、それでもそのような治療が必要な場合があると論じ、批判対象となりがちな「医学モデル」の擁護を試みる。田所は、森田療法の神髄をメタ心理学的に研究している立場から、心の病と密接に関わる人間の苦悩について「正常」と「異常」の区別ができるのかどうかを論じることを通じ、この概念を明確にすることを試みる。信原は、精神疾患が各患者に関する多様な要因が複雑に絡み合って生じる患者独自の個別的な病であるがゆえに、それが治ることもまた各患者に特有の個別的なことだと論じる。