The 120th Annual Meeting of the Japanese Society of Psychiatry and Neurology

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一般シンポジウム

一般シンポジウム47
嗜癖性障害への内観療法

Fri. Jun 21, 2024 8:30 AM - 10:30 AM O会場 (札幌市産業振興センター 産業振興棟 2F セミナールームC)

司会:髙木 学(岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学),堀井 茂男(慈圭病院)
メインコーディネーター:小澤 寛樹(長崎大学国際・地域精神保健科学分野)
サブコーディネーター:塚﨑 稔(三和中央病院)

嗜癖者は、幼少期における養育者から受けるべき愛情の欠乏感や孤独感を抱きやすく、その後の生育過程においても他者から承認された経験にも乏しく、他者からの賞賛を求めて肥大化した自己と現実の自己評価のギャップから自尊心が傷つきやすく、無価値であるという痛みを抱えている。その結果、心的痛みの緩和を嗜癖行動に求めるという生き方をしていることが多い。嗜癖性障害への内観療法は、まさにこの心理的特徴にターゲットを向けている。薬物療法に乏しい嗜癖行動に対する治療には、集団精神療法や認知行動療法が現在主流で有効と言われているが、嗜癖者のこのような心理的特徴が、幼少期の痛みの記憶というべき過去の体験に起因するならば、そこに立ち返り、自分が価値ある人間としての気づきがまず必要であろう。内観療法は、幼少期から今日までの自分とかかわりの深かった両親をはじめとする重要な人物との過去の体験を内観3 項目(していただいたこと,して返したこと,迷惑をかけたこと)という観点に沿って年代順に過去の事実に基づいて,客観的な視点から自分史を丁寧にたどる作業である。即ち、内観療法は嗜癖者のもつ症状(恨み、抑うつ、依存欲求、否認など)に対しては直接的問題として取り上げず(症状不問)、むしろ健康な領域、つまり愛情深さ、素直な気持ち、他者へのいたわりなど嗜癖者が本来持っている健康な心性を賦活していくのである。その結果、嗜癖者自身が症状を癒し、自己治癒力が増すようになっていく。内観療法の心理的過程においては、嗜癖者自身が他者から愛された体験、大切にされてきた存在に気づき、「価値ある自分」「生かされている自分」として受け止め直されていく。嗜癖性障害からの回復にはこのような全人的な回復が重要であろう。今回、嗜癖性障害への内観療法の有効性について事例を挙げながら討議したい。