第120回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

一般シンポジウム

一般シンポジウム64
デモラリゼーションの精神病理と臨床

2024年6月21日(金) 13:25 〜 15:25 K会場 (札幌コンベンションセンター 2F 206会議室)

司会:古茶 大樹(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室)
メインコーディネーター:井上 猛(東京医科大学精神医学分野)

デモラリゼーション(demoralization)とは、ストレスの対処に失敗し続けた結果、無力感、孤立感、絶望感、自尊感情の低下、人生が無意味に思えてしまう感覚が生じた心理状態である。薬物療法は無効であり、自己統御感の回復を目指した心理療法が効果をあらわす。DSM-5 に基づいて記述すれば大うつ病性障害もしくは適応障害と診断されることが多いが、近年、がんなどの進行性身体疾患にみられる特徴的な心理状態として、緩和医療やリエゾン精神医学の分野でさかんに研究されている。デモラリゼーションを識別する利点は2 つある。1 つ目は、治療方針の選択に役立つ点である。Klein, DF は薬物療法や電気けいれん療法が選択的に効果をあらわす内因性うつ病と、心理療法を優先すべきデモラリゼーションの鑑別を重視し、両者の鑑別点として完了行動のアンヘドニアを挙げた。DSM-5 では大うつ病性障害の診断であっても、デモラリゼーションと認識することで、治療方針が明確になる。2 つ目は、デモラリゼーションが自殺の危険を示す指標になる点である。デモラリゼーションは、抑うつ状態とは独立して自殺念慮と関連することが示唆されており、「抑うつ状態ではないが自殺リスクのある人」の認識に役立つ。本シンポジウムの目的は、臨床におけるデモラリゼーション概念の有用性を議論し、抑うつ病態の診療精度を向上させることである。大前にはデモラリゼーション概念の総論的解説をしていただき、玉田が近年の臨床研究の動向について論じる。中川には緩和ケア臨床におけるデモラリゼーションとアンヘドニアについて論じていただき、安井と秋久には、それぞれ身体疾患患者と学校教員にみられるデモラリゼーションの臨床について論じていただく予定である。