第120回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

一般シンポジウム

一般シンポジウム65
日本における精神療法:受容と展開

2024年6月21日(金) 13:25 〜 15:25 M会場 (札幌市産業振興センター 産業振興棟 2F セミナールームA)

司会:北西 憲二(森田療法研究所、北西クリニック),新村 秀人(大正大学臨床心理学部)
メインコーディネーター:新村 秀人(大正大学臨床心理学部)
サブコーディネーター:北西 憲二(森田療法研究所、北西クリニック)

わが国の精神科臨床において行なわれている精神療法の多くは,欧米に生まれわが国に導入されたものである。その際,翻訳や文化的差異を埋める工夫をし,わが国の臨床実践に適した形に変化したと思われる。精神療法はどのように受容されたのか,受容された精神療法はどのように展開し「日本の精神療法」になったのか,文化論的に検討したい。精神分析を輸入した古澤平作は,エディプスコンプレックスとは異なる日本的な母子関係重視の阿闍世コンプレックスを提唱したがフロイトには認められなかった。米国体験をもつ土居健郎は「甘え」理論を,竹友安彦は「先生転移」を創出したが,基底には欧米由来の精神分析の受容と抵抗がある。加藤は先達の概念を元に日本人のための精神分析の本質を問う。分析心理学(ユング心理学)を日本にもたらした河合隼雄は,その際さまざまな配慮をおこない(例えば長年「たましい」という用語を用いなかった),さらには箱庭療法を導入したが,そこには彼の日本人の心性に対する深い洞察があった。林は,河合の洞察を糸口として,分析心理学の「今」について検討する。森田療法は,当時の欧米の精神療法の技法も取り込み日本で創始されたが,なかなか欧米には理解されなかった。その理由の一つに「あるがまま」と”acceptance”,「自然」と”nature” の違いがあると思われる。新村は,外国で実践されている森田療法と日本の森田療法との比較検討を通して,森田療法の本質を問う。田所は,森田療法をメタ心理学的に研究する立場から,精神療法を受容・展開する際の大きな障壁となる,①理論化の問題:精神療法の本質を分かりやすく理論化することの難しさ,②アカデミック・コロニアリズムの問題:欧米の学問的知見を無自覚的に優位なものとみなしてしまうこと,について論じる。これらの問いを通して,私たちが日々当たり前のように行っている「日本の精神療法」について改めて考えたい。