第120回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

一般シンポジウム

一般シンポジウム94
微量リチウムのもつ可能性を考える:研究と臨床の前線から

2024年6月22日(土) 10:45 〜 12:45 N会場 (札幌市産業振興センター 産業振興棟 2F セミナールームB)

司会:安藤 俊太郎(東京大学),寺尾 岳(大分大学医学部精神神経医学講座)
メインコーディネーター:安藤 俊太郎(東京大学)
サブコーディネーター:寺尾 岳(大分大学医学部精神神経医学講座)

リチウムは最も軽い金属元素であり、海水中と地殻上部を循環している。我々ヒトは、日常生活において食物や水から微量のリチウムを摂取している。水道水中のリチウム含有濃度は地域差が大きく、場所によって千倍以上もの地域差がみられる。炭酸リチウムは1949 年以来、躁うつ病や躁状態、うつ病に対する増強療法などに活用されてきた。しかし、腎臓や甲状腺への影響などの副作用があること、治療濃度域が狭いことなどから、臨床利用に慎重になる医師は多い。製薬会社によるプロモーションが乏しいこともあり、炭酸リチウムの過少利用が指摘されている。リチウムは躁うつ病に対する病相予防効果やうつ病に対する抗うつ効果に加えて、自殺予防効果をもつことが指摘されてきた。たとえば、気分障害患者を対象としたランダム化対照試験で自殺に対する予防効果が示されている。自殺予防効果が示唆されている薬は少ないが、中でも自殺予防効果のエビデンスが最も頑健なのは炭酸リチウムであろう。リチウムが自殺を予防する機序は不明だが、攻撃性や衝動性に対する効果を介して自殺を予防すると考えられている。現在、世界では毎年70 万人以上が自殺で亡くなっている。新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、近年は特に若者における自殺率増加が目立ち、予防策が求められる状況である。上述のように炭酸リチウムが過少利用される背景には中毒や副作用への懸念が考えられるが、リチウムの微量利用であればそれらの懸念が払拭される可能性は高い。それでは、微量リチウムは、攻撃性や衝動性、自殺などへの予防効果をもつのであろうか。本シンポジウムでは、この疑問に応えるために、研究と臨床の最前線の知見を終結する。国内の大規模疫学研究や自死例の臨床研究の成果、最新の臨床実践例などを紹介する。本シンポジウムが、今後の微量リチウムについての研究の方向性や臨床応用を考える機会となれば幸いである。