第120回日本精神神経学会学術総会

セッション情報

一般シンポジウム

一般シンポジウム95
地域精神医療に役立てる「浦河べてるの家」の精神科クリニカル・パールの探究

2024年6月22日(土) 10:45 〜 12:45 O会場 (札幌市産業振興センター 産業振興棟 2F セミナールームC)

司会:今村 弥生(杏林大学医学部精神神経科学教室),加藤 伸輔(NPO 法人地域精神保健福祉機構(コンボ))
メインコーディネーター:今村 弥生(杏林大学医学部精神神経科学教室)

べてるの家とは、北海道浦河町を拠点とする、精神障害当事者が主体的に運営する法人企業兼生活共同体である。1987 年、北海道の中でも人口減少が進む浦河町において、当時の浦河教会で生活を共にしていた当事者有志と、地域の総合病院勤務のソーシャルワーカー、さらに一般町民が協働して、浦河の特産品の日高昆布を扱う事業を開始したことに端を発し、1993 年には統合失調症当事者を代表取締役として有限会社を設立、2002年からは社会福祉法人となり、現在は就労継続支援B型(カフェなど)、生活介護、訪問看護ステーション、グループホーム等の事業を浦河町内で展開している。精神症状による病的体験や、それに伴う生活上の問題、病いからの回復について当事者自らが実名で、ユーモアを交えて発信することも本団体の特徴で、1992 年の「べてるの家の本」出版に始まり、多くの講演活動やメディア出演を経て、現在は精神障害の「当事者研究」へと発展し、厚生労働省から日本の精神保健におけるベストプラクティスの一施設に選ばれた他、保健文化賞、毎日社会福祉顕彰、日本精神神経学会における第1 回医療奨励賞などの多くの受賞歴がある。べてるの家の独創性は、当事者主体の活動を徹底してきたことに起因すると考えられるが、反面、当事者を支える地域の医療従事者からの、診療・支援の方略についての発信は多くはなく、また、しばしばべてるの家の活動は浦河町でしか実践できない試みであるように見なされ、その臨床実践についての批判的吟味を含めた議論は十分になされていない。本シンポジウムでは、べてるの家の活動の中から、浦河以外の地域においても実践可能で、地域で生活する当事者に役立つ精神科臨床のクリニカル・パールの探索を目指して、精神医学、精神科看護、地域の精神保健福祉、医療人類学、海外を含む他地域の実践との比較などの観点から議論する。