第51回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)
運動と認知機能

Fri. May 27, 2016 5:40 PM - 6:40 PM 第1会場 (札幌コンベンションセンター 1階 大ホールA)

司会:金子文成(札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

[KS1011-1] 運動と認知機能

前島洋 (北海道大学大学院保健科学研究院)

超高齢化社会を迎えた今日,高齢者が人生最後の約10年間において,何らかの形で介助,介護を必要とすることが浮き彫りになってきた。この健康寿命との乖離をいかに改善することができるかに高い社会的関心が集まっており,老化に伴う様々な心身の退行に対しての予防が重視されている。理学療法士が専らとする治療・介入手段である「運動」は,運動機能における退行予防のみならず,アルツハイマー病を代表する認知症の予防に対しても極めて有効な手段であることが注目されている。その神経科学的因子として注目されているのが中枢神経の保護,生存,可塑性を促進する神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)である。BDNFは神経活動依存的に発現が増強されるが,興味深いことに運動によっても中枢神経系,とりわけ記憶・学習の中枢である海馬において発現が増強される。高齢者を対象とする研究において,運動に依存した血液,脳脊髄液中のBDNFの発現増強について多く報告されている。一方,私たちの老齢モデル動物を用いた研究においても,海馬におけるBDNFと主要なシナプス受容体の運動依存的な発現の増強が確認されている。高齢者を対象とする研究と老齢モデル動物を対象とする神経科学的基礎研究の間には補完しなければならない多層なレベルでの研究の展開が必要となるが,そこに確かに垣間見えることは,高齢者を対象とする予防的運動療法とは,老化に伴う運動機能と認知・精神機能の退行に対する相互作用的効果を統合的にとらえることにより,健康寿命の改善に貢献することを目的とすることである。本講演では運動による認知機能退行に対する可能性に対して基礎理学療法学の視点から多層的に検討することを目的とする。