第51回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会

日本神経理学療法学会
脳卒中片麻痺患者の神経可塑性と歩行

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 5:30 PM 第1会場 (札幌コンベンションセンター 1階 大ホールA)

司会:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院セラピー部)

[KS1052-3] 脳卒中片麻痺患者の神経可塑性と歩行

伊藤克浩 (山梨リハビリテーション病院リハビリテーション課)

1996年のNudo博士によるサイエンス論文以降,中枢神経疾患におけるニューロリハビリテーションは常識となった。その論文では人為的にリスザルに脳損傷を生じさせ,使いにくくなった麻痺手に対してCIMT(非麻痺手を拘束して麻痺手を強制使用させる療法)を用いることで麻痺手に関わる運動領野に変化が起きることが紹介された。この実験により麻痺側からの高頻度の情報入力が脳のマッピングに影響することが証明された歴史的な論文である。しかしながら我々が普段目の前にする脳卒中片麻痺患者には皮質脊髄路の損傷が著しい場合,強制使用しようにも末梢の手・足がわずかにしか動かない症例も存在する。一方で網様体脊髄路や前庭脊髄路といった両・同側性の下向路の損傷が比較的少なくて中枢部や姿勢調整,そして歩行機能の潜在能力を持っていながら早期からADLの改善だけを目指した介入しか理学療法士が行わないことで,高頻度の情報入力の機会が失われ,中枢部の筋萎縮や弱化が進み回復の可能性があるのに十分な治療を受けられていない症例を目の当たりにすることがある。また,脊髄Central Pattern Generatorは脊髄に存在するので脳卒中では直接障害されることはないが,骨格筋(特に股関節屈筋群)が伸ばされたり足底からリズミカルな感覚入力が戻ってきたりし続けることが駆動の条件とされているのに,潜在能力がある症例であっても理学療法士に三動作継ぎ足歩行を強制的に教え込まれる事によって潜在能力が発揮されない症例も存在する。
これらの症例が十分な治療を受けられる為には理学療法士が症候学だけではなく,神経科学の知識を持ち,そして急性期から潜在能力や回復の可能性を的確に把握できるようにクリニカルリーズニング能力を身につけておくべきである。当日は脳卒中片麻痺患者の神経可塑性と歩行について,姿勢制御機構に着目することで杖無し交互歩行を再獲得した実例を提示しながらお話ししたい。