第51回日本理学療法学術大会

講演情報

日本糖尿病理学療法学会

日本糖尿病理学療法学会
分子生物学的観点から糖尿病患者の筋機能の可能性を探る

2016年5月27日(金) 13:00 〜 15:10 第3会場 (札幌コンベンションセンター 1階 中ホール)

座長:野村卓生(関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科), 井垣誠(公立豊岡病院日高医療センターリハビリテーション技術科)

[KS1094-1] 糖尿病の骨の異常

髙木聖 (常葉大学保健医療学部)

糖尿病に起因した細小血管障害による腎症,網膜症,神経障害は広く知られている。また,近年では糖尿病と筋力との関連性についての研究報告が散見されるようになった。しかし,糖尿病による『骨の異常』については,あまり認識されていないのが実情ではないだろうか。糖尿病と骨との関連性についての研究は,1948年にAlbrightらが糖尿病による骨量減少を報告したことに始まる。その後,1990年代には2重エネルギーX線吸収測定法(DXA)の普及とともに糖尿病罹患者の骨密度に関する数多くの研究成果が報告されるようになった。1型糖尿病罹患者の大腿骨近位部骨折リスクは非罹患対照群の6.9倍,2型糖尿病においては1.4倍に上昇することがメタアナリシスによって示されている。骨折リスクに多大な影響をおよぼす骨強度は骨密度(70%)と骨質(30%)の2つの要因からなる。1型糖尿病においてはインスリンの絶対的作用不足によって骨密度が低下することが知られている。それに対して2型糖尿病では骨密度が非罹患対照群と同等あるいは高値であることが報告されており,骨質の変化と骨折リスクとの関連性が指摘されている。糖尿病罹患者の骨代謝には,血糖値や血中脂質値をはじめとして内蔵脂肪,インスリン,骨代謝関連タンパク質,終末糖化産物,酸化ストレスなど数多くの因子が複雑にかかわっており,未だ解明されていない点が数多く残されている。2型糖尿病モデルマウスを用いたわれわれの研究では,血糖値と大腿骨骨密度が負の相関を示し,その機序に骨形成タンパク質が関与することが確認された。また,高脂肪食を長期間摂取させた正常モデルマウスにおいても大腿骨骨密度の低下が生じ,それには耐糖能や肝脂肪量が深く関係していることが示唆された。本講演では,現在検証中である『糖尿病の骨に対する運動療法の有効性』についても,生化学的データやμCT画像データなどを提示しながら紹介する予定である。