[KS1094-3] 骨格筋における糖尿病性微小血管障害に対する運動の効果と分子機序
糖尿病の合併症は太い血管に生じる大血管障害と毛細血管を中心に生じる微小血管障害に大別される。合併症としてよく知られている糖尿病性網膜症,腎症,神経障害,壊疽等は,微小血管の障害に起因するものである。糖尿病により発症する合併症を理解するためには,組織における微小血管新生・退行や作用機序ついて知識を深めると共に細胞とのクロストークを理解する必要がある。組織における血管新生・退行には血管内皮細胞増殖因子(VEGF)経路やangiopoietin-tie2受容体経路が主に関与することが知られている。VEGFは血管内皮細胞の成長には欠かせない因子であり,脈管形成や血管新生に働く。一方,angiopoietin-tie2受容体経路は微小血管の内皮細胞の結合状態やsprout(発芽)に関与する因子である。特にangiopoietin-2とangiopoietin-1の発現比により血管内皮細胞の結合状態が変化し,VEGF発現の有無で血管新生の促進,または血管退行を導くと考えられている。さらに筋細胞と毛細血管の間には酸素の受容と供給の関係があり,低酸素状態で発現する低酸素誘導因子(HIF-1α)は血管網の成長や退行の重要な因子の一つである。HIF-1αの発現は血管新生に関わる様々な因子を活性化することが知られ,組織における微小血管の増減を調整していると考えられる。本シンポジウムでは骨格筋における血管新生や退行に関与する調節因子や骨格筋の代謝に関連する因子及び作用機序を解説する。また,糖尿病の骨格筋に生じる微小血管障害について,骨格筋微小血管を三次元可視化した観察像や血管新生因子発現の変化の特性を紹介する。一方,糖尿病に対する運動療法は薬物療法や食事療法と共に糖尿病治療の重要な戦略の一つであり,血糖のコントロールや合併症である微小血管障害の予防に大きく貢献をする。そこで,低強度運動や高強度運動による微小血管障害に対する予防効果について,2型糖尿病モデル動物を使用した研究を紹介する。