第51回日本理学療法学術大会

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大会長基調講演

大会長基調講演
分科学会への移行とこれからの展望~理学療法学のアイデンティティの視点から~

Fri. May 27, 2016 10:10 AM - 10:40 AM 第1会場 (札幌コンベンションセンター 1階 大ホールA)

司会:伊橋光二(山形県立保健医療大学 保健医療学部 理学療法学科)

[KS1139-1] 分科学会への移行とこれからの展望~理学療法学のアイデンティティの視点から~

星文彦 (埼玉県立大学保健医療福祉学部)

第51回日本理学療法学術大会は,日本理学療法士学会が12の分科学会に改組され初めて開催する学術大会であり,12分科学会が連合し一堂に会して開催される。昨年の第50回を記念する大会に続き日本理学療法士協会及び学会の歴史の一つの節目となるものと認識をしている。この節目の年に大会長として役目を果たせることを光栄に思うとともに関係役員の方々に心から感謝申しあげる次第である。
第51回大会を日本理学療法士学会が12の学会へ発展的に分科してゆく過程として捉え,改めて「理学療法学とは何か」,「分科する理学療法学の基盤は何か」を問うてみようということから,本大会のテーマを「理学療法学のアイデンティティ~基盤と分科~」とした。
学会の分科学会化は,平成20年4月の理事会にて,「第50回大会以降(第51回大会から)は,学術大会を分科学会へ移行する」という決定により具体化の検討が開始された。この決定を受け設置された協会長諮問委員会「全国学術大会・全国学術研修大会のあり方特別委員会(林義孝委員長)」の答申(平成22年10月31日)により分科学会化が具現化されることになった。学会に関わる答申の要旨を以下に示す。
1.新学会組織は第51回大会より,協会組織内に常設部門(日本理学療法士学会(仮称))として設置し,将来的には学術研究団体として独立させることを目指すべきである。
2.新学会は純粋な学術研鑽の場として位置づける。最新の学術演題発表を中心とした学会へと見直し,学会のスリム化を図る。
3.新学会は第51回から専門領域研究部会による分科会形式とする。当面,開催方法は同一会場で日程を分散する同時開催とするが,出来るだけ速やかに,分科会ごとの独立開催に移行することが望ましい。
4.各分科会の学術領域を確立するためには,現行の専門領域研究部会の再構成を検討する必要がある。
5.新学会では3-4年に一回程度,全分科会を総括した学会総会(仮称)を開催することが望ましい。
このような過程の中で,いわゆる理学療法学のアイデンティティは何かを確認しておくことが学会の今後の方向を見据えるときに必要になると考える。
さて,今まで,学術団体として培ってきた7領域の専門研究部会が12の分科学会と5つの部門に分科した意味は何なのか,各専門部会が自己創発的に分科を選んだのだろうか,あるいは理学療法を取り巻く日本の保健医療福祉の社会的ニーズによるものなのだろうか,この分科の科学的あるいは学問的合理性はどこにあるのか,さらに臨床的介入技術としての理学療法との整合性はあるのか,様々な疑問が脳裏を掠める。
学会は,臨床(医療)と科学(学問)を結ぶ重要な要であり,理学療法士の数が10万人を超え,世界一を誇る日本の理学療法の将来を鑑みると臨床と科学の両面から見据えた発展系が日本理学療法士学会には求められていると言える。
一方,一つの学会が,12の分科学会,5つの部門に,さらに近い将来更なる分科が予測される中,分科の背景にある核を見失ってはならない。各分科学会と部門のキーワードは,基礎,疾病,臨床,地域,支援,予防,産業,教育,等々が挙げられ,組織学から工学,社会学まで様々な学問に関連し,まさに理学療法学は学際的と言えるかもしれない。しかし,これは,理学療法学の核ではない。理学療法はリハビリテーションと近似語であるが,理学療法は,医学モデルや生活モデルではない独自の理学療法学モデルを持っており,それは学会のテーマでもある「理学療法学のアイデンティティ」に結びつくものである。ここで敢えて,理学療法学モデルを自覚するために,そのキーセンテンスとして,「理学療法は,疾病・徴候・機能・活動の因果性と関係性をabilityとdisabilityの両面からアプローチするものである」と主張する。ここで,因果性とは疾病・徴候と機能との対峙であり,関係性とは機能と環境を包含した活動との対峙を意味する。
今,日本理学療法士学会の分科学会化に際し,第51回日本理学療法学術大会において「我々は何者なのか」を問いたいと思う。